2年ぶり N響10月定期へ来演したヘルベルト・ブロムシュテット

第8番「ザ・グレート」は第1楽章序奏部から軽快なテンポ、すべての繰り返しを実行したにもかかわらず、全曲の演奏時間は約62分であった。いたずらにオケを鳴らし切ることをせずに、超弱音を多用しながら、ひとつひとつのフレーズを丹念に整えていく。提示部、再現部の終盤、トロンボーンのソロとそれを支える弦楽器の音量も細かくコントロールされて、一瞬たりとも流れに任せることなく高い緊張感を維持して音楽が組み立てられていく。第2楽章では転調で響きが変化していく際、その橋渡しをしていく内声部を担当している楽器の動きを聴き取ることができたのも興味深い。終楽章も速めのテンポ設定でキビキビと音楽が進められたが、テンポと音量が綿密にコントロールされ、力を溜めながらクライマックスに向かって徐々に盛り上がりを築いていき、力強く雄大なフィナーレを創出してみせた。この日もコンサートマスターを務めた川崎が時折、立ち上がるような仕草の熱演でリードし、弦楽器をはじめオケ全体がブロムシュテットの思いに応えようと渾身の演奏を繰り広げた。第4楽章のコーダ直前、弦楽器がトゥッティでC（ド）の音をダウンボウで弾く（4回×4）箇所ではN響ならではの重厚な響きも圧巻であった。終演後は客席が総立ちの大喝采となり、川崎に支えられたマエストロは笑顔で、歓呼に応えていた。

ABC3プログラムともテンポの緩急、音量の強弱の幅が広く、高齢にもかかわらず聴力に問題はなく、オケを細部にまでコントロールしていることがはっきりと伝わってきた。過去に体験した高齢の巨匠指揮者の晩年の演奏はテンポが極端に遅くなることが多く、聴力の衰えから弱音がおろそかになる傾向が強かった。今のブロムシュテットにはそうした兆しはまったく見られず、表現の幅はむしろ以前よりも広がったような気すらする。そして、何よりも自己をアピールしようとの意思を感じさせず、ひたすら作品の真実に迫っていこうとの真摯（しんし）な姿勢が演奏に反映されていて、それが聴く者の心に大きな感動を呼び起こす。来年10月のN響定期への来演も既に発表されている。来年も再び日本の聴衆に名演を聴かせていただきたい。