モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」の洗練されたステージ
ザルツブルク音楽祭2026のリポート2回目はモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」再演(ヨアナ・マルヴィッツ指揮、クリストフ・ロイ演出)について報告する。(宮嶋 極)
ヨアナ・マルヴィッツ指揮、クリストフ・ロイ演出による「コジ・ファン・トゥッテ」はザルツブルク音楽祭100年を記念して2020年にプレミエされたプロダクション。折しもコロナ禍真っただ中ということもあり、歌手間のソーシャル・ディスタンスの確保などさまざまな制約の下での上演だったにもかかわらず、大きな話題を集め、翌21年にフル・バージョンで再演され大成功を収めた。今年は21年のフル・バージョンが再び上演された形だ。
ロイの演出は2つのドアがある白い壁という簡単な装置を前に6人の登場人物が歌唱と演技を繰り広げるシンプルなコンセプト。コロナ禍の制約の中で、余分なものを極力削り落とした演出と装置はかえって登場人物の感情をストレートに表出する効果を生み出していたように感じた。今年の上演ではもちろんディスタンスの確保などは一切なく、活発な動きを伴う芝居が行われ、マルヴィッツの音楽と合わせて生き生きとしたステージに仕上がっていた。舞台前面がオーケストラ・ピットに向けて階段状にせり出していたため、オケと歌手の距離が近く、アンサンブルがより緊密になる効果も生み出していた。過激な読み替え演出が行き詰まりを見せる中、オペラの新たな上演スタイルのひとつとして大きな示唆を与えてくれるステージであった。
今、ドイツで最もチケットが取りにくい音楽家ともいわれるマルヴィッツの指揮は、過去に放送された映像などに比べるとかなり肩の力が抜け、ウィーン・フィルとの間の信頼関係もより深まっているように映った。全編にわたって軽快なテンポで旋律線をしなやかに描くように音楽が進められていく。弦楽器のヴィブラートは最小限に抑えられ、ピリオド奏法に寄せたスタイル。レチタティーヴォの伴奏はチェンバロではなく、フォルテピアノであった。作曲家の在世当時のスタイルを意識しつつも、そこに現代的なセンスを織り込んだマルヴィッツの音楽作りは、ヨーロッパにおける彼女の人気の秘密を納得させてくれるものであった。
歌手陣ではドラベッラのヴィクトリア・カルカチェバが今回からの参加であったが、チームワークは良好で、歌唱・演技ともに全員の息がうまく合っていた。特に印象に残ったのがドン・アルフォンソ役のヨハネス・マルティン・クレンツレ。演技力に定評のある彼は、このプロダクションの柱のような存在感を発揮していた。デスピーナのレア・デザンドレもコケティッシュな雰囲気で何度も笑いを誘う演技で公演の成功に大きな役割を果たしていた。
全体としては、さすが世界最高峰といわれるザルツブルク音楽祭に相応しい洗練された上質なステージであった。
公演データ
ザルツブルク音楽祭2026 モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」
8月11日(火)19:00 ザルツブルク祝祭大劇場
指揮:ヨアナ・マルヴィッツ
演出:クリストフ・ロイ
舞台美術:ヨハネス・ライアッカー
衣装:バーバラ・ドロシン
照明:オラフ・ヴィンター
合唱指揮:ヨーゼフ・シャブロニ
フィオルディリージ:エルザ・ドライジグ
ドラベッラ:ヴィクトリア・カルカチェバ
フェルランド:ボグダン・ヴォルコフ
グリエルモ: アンドレ・シュエン
デスピーナ:レア・デザンドレ
ドン・アルフォンソ:ヨハネス・マルティン・クレンツレ
コンサート協会ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。








![第2幕 左から公証人(阿瀬見貴光)、トニオ(澤原行正)、マリー(砂田愛梨)、伍長(市川宥一郎)、ベルケンフィールド侯爵夫人(金澤桃子)、シュルピス(山田大智) 撮影:三枝近志 提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/11/628d6f47cb18c632a2c3e57bb72dec12-300x200.webp)

