ミッコ・フランク指揮 ベルギー国立管弦楽団 ピアノ 亀井聖矢

フランク&ベルギー国立管の現在地を示した好演

フィンランド出身の指揮者ミッコ・フランクとベルギー国立管弦楽団は2003年1~2月に同じコンビで来日、チャイコフスキーの5番他を演奏して鮮烈な印象を残していた。当時のフランクは「悪性の腰痛」のため20代前半で椅子に腰かけて指揮していたが、今回は元気いっぱい歩いて登場。長い指揮棒を大きく振り回す姿や、時にテンポを大胆に動かすことも変わっていなかった。一方、オーケストラのサウンドは、1990年代に彼らの本拠地で耳にした少し粗い響きとも、2003年の来日時のものとも、大きく変わっていた。弦の響きは明るく軽く、管には名手が揃(そろ)っていた。

指揮者のミッコ・フランク ©Christophe Abramowitz - Radio France
指揮者のミッコ・フランク ©Christophe Abramowitz - Radio France

前半のブラームスは、ホールの豊かな残響のためもあり、亀井聖矢(もうすぐ25歳)のピアノがオーケストラの音量に押され気味。それに負けまいと必死に弾き進む姿は好感が持てる。第3楽章後半、有名なチェロのオブリガードが戻って来る前くらいからは聴き手の耳も慣れ、両者のバランスもほどよく合致して実力発揮。最終楽章の弱奏による小粋な出だしも「おお、やるじゃないか」と思わせた。ピアニストは終演後、熱狂的な拍手で迎えられていた。

ブラームスのピアノ協奏曲第2番でソリストを務めた亀井聖矢 ©Junichiro Matsuo
ブラームスのピアノ協奏曲第2番でソリストを務めた亀井聖矢 ©Junichiro Matsuo

チャイコフスキーは、半月ほど前に同じ曲をサンクトペテルブルク・フィルで聴いた時とは正反対の洗練された音楽に変貌。冒頭楽章第2主題のチェロやヴィオラの歌い方だけでなく、フレーズ終わりのちょっとした表情に小粋な綾がありテンポも時に大きく揺れる。第2楽章の長いホルンのソロとそれに応えるオーボエ、続く第3楽章ワルツのふわっとした感触など、こちらが勝手にイメージする「ロシアの大地」とは違う「西ヨーロッパ」の感触に聞こえた。そういえば19世紀末、ロシア宮廷での貴族の会話はほぼフランス語で、チャイコフスキーは普通にフランス語を話していた。こういう「チャイ5」は滅多に聴くことが出来ず、本当にいい。名作は多様なアプローチを許容する。
(渡辺和彦)

公演データ

ミッコ・フランク指揮 ベルギー国立管弦楽団 ピアノ 亀井聖矢

11月2日 (月) 19:00すみだトリフォニーホール 大ホール

指揮:ミッコ・フランク
ピアノ:亀井聖矢
管弦楽:ベルギー国立管弦楽団

プログラム
ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調Op.83
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調Op.64

ソリスト・アンコール
リスト:ラ・カンパネラ

オーケストラ・アンコール 
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲集Op.46-8

Picture of 渡辺 和彦
渡辺 和彦

わたなべ・かずひこ

音楽評論家。北海道生まれ。弦楽器と歌(他ジャンルを含む)、猫、小鳥好き。
NHK「朝のバロック」他の企画構成を約20年担当、FM東京(現トーキョーFM)クラシック番組担当も長く務める。前後して「ヴァイオリニスト33」(河出書房新社)、「ヴァイオリン・チェロ名曲名演奏」(音楽之友社)、「ラテン・クラシックの情熱」(水曜社)などを発表。最初の著作「クラシック辛口ノート」(洋泉社)のため「辛口評論家」と言われることも多いが実はそれほどでもない。

連載記事 

新着記事