フェスタ・サマーミューザ KAWASAKI 2026 佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団

十八番を並べた佐渡裕が肩の力を抜いて楽しみ尽くした

バーンスタインとマーラー。これぞ新日本フィルの音楽監督、佐渡裕の十八番である。バーンスタインは佐渡の師匠で、マーラーを世界の定番へと押し上げた立役者でもあった。だから佐渡は両者の演奏をとりわけ得意としており、それもあってかチケットは即座に完売したという。

新日本フィルの音楽監督、佐渡裕が指揮台に立ち、自身の十八番であるバーンスタインとマーラーのプログラムを披露した (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
新日本フィルの音楽監督、佐渡裕が指揮台に立ち、自身の十八番であるバーンスタインとマーラーのプログラムを披露した (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

バーンスタイン「キャンディード」序曲は、冒頭のファンファーレから躍動的なリズムが漲(みなぎ)り、切れ味鋭く主題が重ねられていった。ポップで、軽やかで、畳みかけるように進行するが、佐渡にも新日本フィルにも気負いは感じられない。肩の力が抜けて楽しんでいるのが伝わってくる。だから陽気なコーダがクレッシェンドすると、聴き手もまた自然に前を向かされてしまう。「キャンディード」の物語自体は、浮き沈みの激しい奇想天外な人生が描かれるが、なにがあっても陽気に乗り切れそうな気にさせられる。

佐渡にも新日本フィルも気負いはなく、良い意味で肩の力が抜けていた (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
佐渡にも新日本フィルも気負いはなく、良い意味で肩の力が抜けていた (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

続いては「ウエスト・サイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」。エネルギッシュで、リズミカルで、ただし力は抜けており、師匠の世界に没入している。だからアゴーギクも呼吸しているように自然である。各場面は〝サムウェア〟は夢見るようだし、〝スケルツォ〟は軽快で、それぞれが明確に描き分けられ、情景が見えるようだった。

ところで、コンサートマスターは崔文洙。第1ヴァイオリンが16人の16型で、後半のマーラーの交響曲第1番「巨人」に臨んだ。

16型で臨んだマーラーの交響曲第1番「巨人」 (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
16型で臨んだマーラーの交響曲第1番「巨人」 (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

佐渡の指揮は、もっと力いっぱい咆哮(ほうこう)するかと思えば、力感を求めつつも緩急が自在で、内声部もよく聴こえる。新日本フィルの音も、どこでも濁ったりすることはない。バーンスタインを気持ちよく振ったあとだから、なおさらだったのだと思うが、力が抜けて楽しめている。この指揮者は力まないほうがいいのだ。第2楽章の低減の刻みも心地よい。
コントラバスの独奏に導かれた第3楽章は、速めのテンポによる快演。第4楽章は、第2主題部で弦の音色に若干の弱さを感じつつも、力強いファンファーレとの対比は鮮やか。金管が勢いよく盛り上げ、コーダでは7人のホルン、トロンボーン、トランペットの各1人が立奏して盛大に締めくくった。


意外にもアンコールがあり、佐渡の定番であるスーザ「星条旗よ永遠なれ」。この時期にアメリカを讃えるのはどうか、という気もしたが、きっとそんな意図はないのだろう。情熱的な演奏に客席の手拍子を巻き込み、「夏祭り」の締めくくりにふさわしくもあった。
(香原斗志)

アンコールは客席の手拍子を巻き込み、大いに盛り上がった (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
アンコールは客席の手拍子を巻き込み、大いに盛り上がった (C)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
新日本フィルハーモニー交響楽団

8月1日(土)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:佐渡 裕
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙

プログラム
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

アンコール
スーザ:星条旗よ永遠なれ

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香原斗志

かはら・とし

音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。

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