フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026 太田弦指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

真面目にふざけて楽しく! ひねりのきいた秀逸なプログラムと演奏で聴衆を魅了

前半は「アメリカ変奏曲」と名乗りながらも実際に主題となっているのは「ゴッド・セイブ・ザ・キング」(イギリス国歌)で、曲が進行するにつれて「あれれ、調がズレてる」と聴き手を慌てさせる複調効果が飛び出すアイヴズ17歳時の原曲オルガン作品。ウィリアム・シューマンのオケ編曲が実に秀逸で、この実演が聴けたのは良かった。「イギリス」が「アメリカ」になってしまうのには興味深い裏事情があるのだが省略。作品そのもののほうがずっと興味深かった。

太田弦が指揮台に立ち、興味深い作品を集めたプログラムを披露した
太田弦が指揮台に立ち、興味深い作品を集めたプログラムを披露した (C)池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

そのあとは1980年代に世界中で大はやりしたフリードリヒ・グルダ作曲(!) の、どこまでフザケていて、どこはシッカリ真面目なのかわからないコンチェルト。「あれれ、ロックだよ」で始まり、突然の~んびりしたウィーン音楽に変わり、またドラムセットがどんしゃか鳴り渡る。かと思うと7分に及ぶ大カデンツァがあり、その中にベートーヴェン「第九」のフレーズが紛れ込んでいたり、最後はウィーンのポルカで始まるも、スーザのマーチが鳴り渡る、グルダお得意のモダンジャズが闖入(ちんにゅう)するなどして、客席には大受けだった。けっこう手が込んで難しいチェロ・パートを真面目にふざけて楽しく演奏した笹沼樹ほかに拍手。

フリードリヒ・グルダ「チェロと吹奏楽のための協奏曲」には、ロックやクラシック、モダンジャズの要素が盛り込まれ、聴衆を大いに楽しませた (C)池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

後半のサン=サーンスは最初から真面目な曲。循環形式、オルガン付きで知られる壮大な曲(のはず)だが、今回のオーケストラは第1ヴァイオリンが12人、コントラバス5人という意外に小さな「12型」。そのため通常の「16型」演奏時とは違って音量が不足したがオルガンがいつも以上に存在感を示し、正真正銘「オルガン付き」交響曲の姿を実感できた。太田弦の指揮も実に的確でわかりやすいもので、オルガニスト(澤菜摘)への配慮にあふれている。この曲、あまり言われないが調の配置などかなり独特。前半の「ヘンテコ」に対して後半は「真面目」のつもりが、どの曲もみんなユニークにひねっている、という秀逸なプログラムと演奏だった。

(渡辺和彦)

サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」のオルガニストは澤菜摘
サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」のオルガニストは澤菜摘 (C)池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
オケが通常より小さな編成だった分、オルガンが引き立った (C)池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

7月30日(木)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:太田 弦
チェロ:笹沼 樹
ドラム:山本 淳也
ギター:尾尻 雅弘
ベース:髙群 誠一
パイプオルガン:澤 菜摘
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽
コンサートマスター:石田 泰尚

プログラム
アイヴズ(ウィリアム・シューマン編):アメリカ変奏曲
フリードリヒ・グルダ:チェロと吹奏楽のための協奏曲
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付き」

ソリスト・アンコール
ハルヴォルセン:ヘンデルの主題によるパッサカリア(ヴァイオリン:石田泰尚&チェロ:笹沼樹)

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渡辺 和彦

わたなべ・かずひこ

音楽評論家。北海道生まれ。弦楽器と歌(他ジャンルを含む)、猫、小鳥好き。
NHK「朝のバロック」他の企画構成を約20年担当、FM東京(現トーキョーFM)クラシック番組担当も長く務める。前後して「ヴァイオリニスト33」(河出書房新社)、「ヴァイオリン・チェロ名曲名演奏」(音楽之友社)、「ラテン・クラシックの情熱」(水曜社)などを発表。最初の著作「クラシック辛口ノート」(洋泉社)のため「辛口評論家」と言われることも多いが実はそれほどでもない。

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