小林資典が九響デビュー! 初開催の大分特別演奏会で、モーツァルト&プーランクを堂々披露
大分県芸術文化スポーツ振興財団と包括連携協定を締結した九州交響楽団が、本拠地福岡の隣県で新たな活動をスタートさせた。最初の大分特別演奏会で披露するのは、翌々日の福岡定期と同じ意欲的な演目。ドルトムント歌劇場で長く音楽総監督代理兼第1カペルマイスターを務める小林資典は、九響とは初顔合わせとなる。
前半に置かれた「プラハ」交響曲、オペラ経験豊富なマエストロは第1楽章序奏の詳細な強弱指示を自然な息遣いへと変換、アレグロ部も対位法を強調し過ぎず、もたれずすっきり。適度なバランスで響く管と打ち込まれる古いタイプのティンパニーで、祝祭序曲としての姿を示す。テキパキ進む第2楽章から、管楽合奏が崩れるギリギリの速さで終楽章へと駆け抜ける。全曲をインテンポで快速に貫くも飽きさせないのは、マエストロの繊細なフレージングと、響きの質感までコントロールしたモダン楽器でこそ可能な強度変化を表現のコアに据えた故。ロマンティックの欠片(かけら)もないが、所謂(いわゆる)古楽奏法ともまるで異なる世界が展開、2管編成モダンオーケストラでのひとつの理想的モーツァルトとなった。
後半のピアノ協奏曲ハ短調K.491、独奏の北村朋幹は、バスラインの過度なアクセントなどの思わせぶりは避ける。モダンピアノの粒の揃った音に右手の旋律の重要性をアピール、第1楽章の鍵盤を広く使う自作のカデンツァで一息。長短調を揺れるロンドの第2楽章も色彩変化は木管群に任せ、第3楽章で短調の変奏が長調に転じてもピアノは陰影の中に留まる。抑制することで深まるストイックな美に天井桟敷から喝采が飛び、アンコールのプーランク「3つのノヴェレッテ第1番」でまた一息つく。
ティンパニーがモダン楽器となるプーランク「牝鹿」組曲は、ここまで押さえた九響パワーを一気に噴き出す、何でもありのおもちゃ箱。第1曲のトリオで、この晩初めてロマンティックな響きがホールを満たす。小唄名人の面目躍如第2曲から、ジャズ的な動きのコントラバスとチェロのラグ風な音色で始まる第3曲では、マエストロのお許しが出たか、管楽器ソロが100年前のフランスを越えそうな瞬間も。第4曲、抑え気味のラッパがアンダンティーノの軽さ重さもある世界を導き、最後のチェレスタの響きは一服の清涼剤。フィナーレ第5曲での「プラハ」終楽章の引用も特に意味などなく、響きのどんちゃん騒ぎでの突然の出会いだったのか。不思議オモシロ熱帯夜は、アンコールK.136終楽章で明るく閉じられた。
(渡辺 和)
公演データ
九州交響楽団 大分特別演奏会
7月22日(水)19:00iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
指揮:小林資典
ピアノ:北村朋幹
管弦楽:九州交響楽団
コンサートマスター:扇谷 泰朋
プログラム
モーツァルト:交響曲 第38番 ニ長調 K.504「プラハ」
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番K.491
プーランク:組曲「牝鹿」FP36
ソリスト・アンコール
プーランク:3つのノヴェレッテ第1番 ハ長調
オーケストラ・アンコール
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136より第3楽章
他日公演
7月24日(金)19:00アクロス福岡シンフォニーホール(福岡)
わたなべ・やわら
1957年千葉県生。アマデウスQ解散後のマスタークラス通訳で真の天才を目の前にし衝撃を受け、以降、室内楽を中心にフリー音楽ジャーナリストとして活動。コロナ禍に引退宣言、大分県由布院町に庵を結ぶも隠居の夢はあえなく挫折、九州北部を拠点に日本フィル九州ツアーや九州交響楽団らも眺める日々。著著に『クァルテットの名曲名演』(音楽之友社)、『ゆふいん音楽祭35年の夏』(木星舎)、『クラシックコンサートをつくる。続ける。』(平井滿との共著、水曜社)、等。










