太田弦指揮 九州交響楽団 第442回定期演奏会

太田弦と九響の充実振りを示す武満徹とブルックナー

九州交響楽団の定期を聴いた。指揮は同団首席指揮者の太田弦。

九州交響楽団の首席指揮者、太田弦が指揮台に立った
九州交響楽団の首席指揮者、太田弦が指揮台に立った

前半は武満徹の「系図」―若い人たちのための音楽詩。ニューヨーク・フィルの創立150年を記念して委嘱され1995年に世界初演された武満晩年の名作だ。谷川俊太郎の詩集「はだか」から武満自身が6篇をチョイス。詩には旋律は付けられておらず、独立した形で朗読されるのだが、オケの休符と朗読が交互に現れるという単純な形だけではなく、一定の音形が繰り返される上に朗読が重ねられたり、指定の小節数の中である一節を読み終えるようにとの指示があったりと、そのタイミングの取り方と音楽を自然に合わせるのが難しい作品でもある。太田は機械的に拍子を刻むのではなく柔軟なタクトで各声部を丁寧に紡ぎながら、言葉の呼吸感にしっかりと対応してオケの演奏と朗読をうまく融合させていた。詩の朗読は地元福岡の若手俳優でタレントの林桜心。「おじいさん、おじいさん」と呼びかけるくだりなどで少女の意思が強く伝わってくるようなリアリティを感じさせる朗読であった。20世紀の作品としては調性が明確で、聴きやすいとされているが、揺らぎを覚えるような繊細なサウンドは太田と九響の充実ぶりを示すものといえよう。

前半は、武満徹の「系図」―若い人たちのための音楽詩。地元福岡の若手俳優でタレントの林桜心が朗読を務めた
前半は、武満徹の「系図」―若い人たちのための音楽詩。地元福岡の若手俳優でタレントの林桜心が朗読を務めた

後半はブルックナーの交響曲第6番。この曲、完全な形で全曲初演されたのは1901年のことで、この日の演目は期せずして20世紀初頭と最終盤に初演された作品が並ぶという凝った構成となっていた。
ブルックナー特有の総休止や原始霧とも呼ばれる弦楽器の弱音のトレモロがほとんどなく、ピッツィカートと付点の音形が多用されるなど、この作曲家としては異色の作風でもある。太田はこうした特徴を踏まえて速めのテンポでリズムを明快に表出させ、力強い推進力を湛えた音楽作りを行った。

ブルックナーの交響曲第6番。太田は、力強い推進力を湛えた音楽作りを行った
ブルックナーの交響曲第6番。太田は、力強い推進力を湛えた音楽作りを行った

筆者はアクロス福岡シンフォニーホールでオケ演奏を聴いたのは初めてだったが、このホールの音響特性が関係しているのかもしれないが、クリアで見通しのよい響きの作り方は従来のブルックナー像に縛られない、新鮮さを感じさせてくれるものであった。チェロ・パスが強めに鳴って堅固な土台を構築した上にヴァイオリンなどの旋律パートがキレの良いサウンドを重ねていく。何よりもブラスのストレートな強奏が印象的。オルガンのような丸みのあるサウンドではなく、刺激的なまでに直線的な音はこの作品のユニークさを分かりやすく表すものであろう。
第4楽章に登場するワーグナー「トリスタンとイゾルデ」の旋律も響きの中に埋没させることなくしっかりと聴かせていた。勢いを維持したままコーダに突入し、輝かしいフィナーレを築いて締め括った。作品の新たな魅力に光を当てる当初の期待を超える熱演であった。

(宮嶋 極)

作品の新たな魅力に光を当てる熱演を聴かせた
作品の新たな魅力に光を当てる熱演を聴かせた

公演データ

九州交響楽団 第442回定期演奏会

9月3日(木)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール

指揮:太田 弦
語り:林 桜心
アコーディオン :大田 智美
管弦楽:九州交響楽団
コンサートマスター: 扇谷 泰朋

プログラム
武満徹:「系図」―若い人たちのための音楽詩
ブルックナー:交響曲第6番イ長調WAB106

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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