SKOというスーパー・オーケストラとの共演で具現化された鬼才ロトが目指すブルックナー演奏の新解釈
セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)のオーケストラ コンサートBプログラムはフランスの鬼才フランソワ・グザヴィエ・ロトの指揮でブルックナーの交響曲第8番。結論から言うと、よい意味でブルックナーらしくない、ロトの個性が前面に打ち出された演奏が行われた。サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)というヴィルトゥオーゾ集団との共演によってロトの意図がこれまでにない水準で実現された格好だ。
弦楽器は16型の対抗配置、チェロ・バスは舞台下手側、管楽器は譜面の指定通りの数、ハープは3人という編成。ハース版とあるが第1楽章と第4楽章において楽想の移行部で通常使用される1889年の改訂を基にしたバージョンとは少し異なる部分が複数個所あった。また、全曲にわたって弦楽器のヴィブラートは抑え気味でノーヴィブラートで弾く場面も多かった。
第1、第2楽章はブルックナー演奏の〝定番〟ともいうべきオルガンのような響きの構築ではなく、旋律の組み合わせ、対旋律や内声部にも光を当てるようなアプローチ。とりわけ弦楽器に対してはマルカート(ひとつひとつの音をはっきりと演奏すること)気味に弾かせる場面が多く、レガートな表情付けを抑えて響きが厚くなりすぎることを避けているようにも映った。また、強奏部に入ると加速するなど緩急を自在に変化させていたことも20世紀の巨匠指揮者によるブルックナー演奏とは一線を画するスタイルであった。
この日の白眉は第3楽章にあったように感じた。バランス重視で構築された響きは弱音においてその美しさが際立っていたからだ。シンバルとトライアングルが打ち鳴らされる楽章の頂点に向かって徐々にエネルギーを蓄えていく過程が、克明に伝わってきたのもロト流といえるだろう。
第4楽章はやや速めのテンポでブラスやティンパニを突出させることなく、引き締まった響きで音楽を組み立てていた。長いコーダの最終盤になってようやく金管セクションのリミッターを外し、壮麗なフィナーレを築いてみせた。最後の一音が消え入ってから15秒以上、拍手が出ずに静寂が続いたことも、ロトの計算に入っていたように思えた。その後は大喝采とブラボーが沸き起こり、全員が退場後もそれは鳴りやまず、小澤征爾以来、SKO恒例となっている指揮者とメンバー全員がステージに再登場する〝答礼〟が2度行われる盛り上がりとなった。
(宮嶋 極)
公演データ
セイジ・オザワ松本フェスティバル2026
オーケストラ コンサート Bプログラム
8月29日(土)15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
指揮:フランソワ・グザヴィエ・ロト
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋 泰嗣
プログラム
ブルックナー:交響曲第8番ハ短調WAB108(ハース版)
他日公演
8月30日(日)15:00キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










