小澤征爾から沖澤のどかへ大舞台のバトンタッチ――「トゥランガリーラ交響曲」で示したOMFの新時代
ことしのセイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)が開幕した。2種類あるオーケストラ・コンサートのうち、最初のAプログラムはOMF首席客演指揮者・沖澤のどかがサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)を振るメシアンのトゥランガリーラ交響曲。小澤征爾自身が1962年に日本初演したものの、松本市で披露する機会は訪れないままだった。
本番直前のタイミングでOMF実行委員会は、沖澤との首席客演指揮者契約を2031年まで延長する、と発表した。小澤とゆかりの深い曲による当公演は、大舞台のバトンタッチを自然と意識させる機会にもなった。
もともと近現代作品は沖澤の体質に合っている。初挑戦というこの大作では、持ち前の思い切りが良いオーケストラ・ドライブが奏功して、活力あふれる音世界を打ち出した。沖澤のキャラクターが特にプラスに表れたのは急速楽章で、弾けるような躍動感は快刀乱麻を断つがごとし。流れの良いテンポでダイナミックにリードし、ガムラン音楽の影響を受けた民俗性よりもオーケストラの機能性が勝った。ことにシンメトリカルな作品構造で中央部にある第5楽章「星々の血の喜び」や、歓喜きわまる終楽章で、巨大な熱気が噴出した。
名手ぞろいのSKOが果たした役割も大きい。もりもり湧き上がるマッシブな力感や濃厚な歌心は、他の国内団体にはないSKOの真骨頂。外国人奏者の多い管楽器セクションでは、首席フルートのセバスチャン・ジャコーが核となって洒脱な音色を繰り出し、第4楽章「愛の歌2」で柔らかなパステルカラーに息をのんだ。
いっぽう、作品の中核を成す第6楽章「愛の眠りの園」といった緩徐楽章に求められる匂い立つような官能性は、意外とあっさりしている。第9楽章「トゥランガリーラ3」のひんやりした神秘性は巧みだっただけに、彫像の主題など何度も登場するライトモチーフ群の変化に富んだ処理を含め、さらなる進化を沖澤は今後聴かせてくれるだろう。
オンド・マルトノの原田節とピアノの務川慧悟は、作曲者直伝の解釈を知るチョン・ミョンフンと共演した理想的なコンビ。20世紀前半のフランスで発明された電子楽器の専門家、原田は本作の演奏機会が多い。この日も柔軟な浮遊感を余裕たっぷりに響かせて、ステージを支配した。フランス音楽を得意とする務川は、エスプリきらめく硬質なピアニズムを生かし、冴(さ)えたタッチでメシアン独特の語法を展開。第7楽章「トゥランガリーラ2」などの確信に満ちたソロで進境ぶりを示し、存在感を高めた。
沖澤は2024年にOMF初の首席客演指揮者へ就任。短い間にさまざまな試練を乗り越え、今のOMFになくてはならない存在となった。由緒ある名跡の新時代を、改めて想わせるメシアンだった。
(深瀬満)
公演データ
セイジ・オザワ松本フェスティバル2026
オーケストラ コンサート Aプログラム
8月22日(土)15:00キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
指揮:沖澤のどか
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田節
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
プログラム
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
他日公演
8月23日(日)15:00キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










