鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン 第163回定期演奏会

緻密で純度の高い合唱とオーケストラの一体感――祈るような調和で締めくくられた圧巻のミサ曲 ロ短調

鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンにとって、J.S.バッハの「ミサ曲 ロ短調」は、いうまでもなく十八番のレパートリーの一つである。CD録音があり、2015年のサントリー音楽賞受賞記念コンサートでも演奏するなど、節目節目で取り上げてきた。今回の定期演奏会での演奏も、非常に練り上げられ、完成度の高いものに思われた。

BCJの十八番のレパートリーの一つ、J.S.バッハ「ミサ曲 ロ短調」で完成度の高い演奏を聴かせた (c)K.Miura
BCJの十八番のレパートリーの一つ、J.S.バッハ「ミサ曲 ロ短調」で完成度の高い演奏を聴かせた (c)K.Miura

合唱は18名(うち5名が独唱者を兼ねる)、弦楽器は12名。過去の巨匠たちのモダン・オーケストラでの演奏に比べるとかなり小振りである。しかし、その緻密で純度の高い合唱はBCJでしか聴けないものであり、鈴木雅明の指揮に俊敏に反応する一体感のある演奏は、このオーケストラでしか聴けないものに違いない。
ダイナミクスの幅が広く、起伏の大きな演奏。等身大の表現では人間的な温かさが感じられる。例えば第2部(クレド)における、キリストの誕生から十字架刑に至る音楽での美しい弱音表現と、キリストの復活での祝祭的な表現とのコントラストは実に見事であった。

独唱は松井亜希、マリアンネ・ベアーテ・キーラント、アレクサンダー・チャンス、櫻田亮、加耒徹。みな瑞々しく美しい声を聴かせてくれたが、なかでもカウンターテナーのチャンスの高い技巧と洗練された歌唱が際立っていた。オーケストラでは、フラウト・トラヴェルソ(フルート)の菅きよみ、オーボエの三宮正満、コルノ・ダ・カッチャ(ホルン)の福川伸陽が見事なソロを披露し、通奏低音陣(チェロの山本徹の積極性!)が素晴らしかった。

高い技巧と洗練された歌唱が際立っていたアレクサンダー・チャンス (c)K.Miura
高い技巧と洗練された歌唱が際立っていたアレクサンダー・チャンス (c)K.Miura

冒頭の「キリエ」は内面の叫びとして歌われた。第1部最後の「クム・サンクト・スピリトゥ」では音の躍動に圧倒される。「サンクトゥス」は丁寧にスケール大きく。そして終曲「われらに平和を与えたまえ」は今の世界への祈りのような熱のこもった演奏。最後はあくまでも美しいハーモニー(=調和)で締めくくられた。
(山田 治生)

熱のこもった演奏に、万雷の拍手が贈られた (c)K.Miura
熱のこもった演奏に、万雷の拍手が贈られた (c)K.Miura

公演データ

バッハ・コレギウム・ジャパン 第163回定期演奏会
 9月27日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

指揮:鈴木雅明
ソプラノ:松井亜希、マリアンネ・ベアーテ・キーラント
アルト:アレクサンダー・チャンス
テノール:櫻田 亮
バス:加耒 徹
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

プログラム
J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調BWV 232

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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