SKOのヴィルトゥオーゾたちによって描き出された武満徹のドビュッシーへのオマージュ
セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)のふれあいコンサートⅡを聴いた。公演のテーマは「ドビュッシーと武満徹」。ドビュッシーを敬愛し、影響も受けた武満の作品とドビュッシーを交互に演奏するプログラム。サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)の腕利きメンバーらが交代で妙技を披露した。
1曲目はドビュッシーの第1狂詩曲。フィラデルフィア管弦楽団首席クラリネット奏者でSKOの常連メンバーであるリカルド・モラレスとフランスでも目覚ましい活躍を見せているピアニスト、務川慧悟による演奏。パリ音楽院のクラリネットの試験曲として作曲されただけに技術的にも難しい作品だが、モラレスは音の粒立ちを美しく揃(そろ)えて、それを滑らかなアーティキュレーションで演奏。務川はモラレスの繊細なタッチの演奏を出過ぎず、また埋没することなく絶妙なバランスで支えた。
2曲目は武満の遺作となったフルートの独奏曲「エア」。演奏はセバスチャン・ジャコー(前ベルリン・フィル首席)。空気(air)と歌(aria)の2つの意味が込められた作品で〝気〟のような日本的感覚が伝わってくる演奏。武満が晩年に多用したSea(海)→Es(S)・E・Aの音型も自然のうちに聴こえてきた。
前半の最後は宮田大と務川の共演でドビュッシーのチェロ・ソナタ。宮田は多彩な音色を使い分けながら、豊かなサウンドを朗々と響かせる。第3楽章、務川との掛け合いは終結部に向かって次第に熱を帯び、高揚感をもって締め括(くく)った。
後半1曲目はジャコーのフルート、川本嘉子のヴィオラ、吉野直子のハープで武満の「そして、それが風であることを知った」。ドビュッシーも同じ楽器の組み合わせでソナタを作曲しており、武満のドビュッシーへのオマージュともいわれる作品。各楽器に多様な奏法が要求されているが、3人は技術的な難しさを感じさせることなく、音色を微妙に移ろわせていくことで、作品の世界観を見事に表出させていた。
ラストはジェニファー・ギルバート、直江智沙子のヴァイオリン、豊嶋泰嗣のヴィオラ、佐藤晴真のチェロでドビュッシーの弦楽四重奏曲ト短調。若手とベテランによる充実したアンサンブルが繰り広げられたが、注目は豊嶋のヴィオラ。筆者は今年4月に豊嶋をインタビュー(ヴァイオリニスト 豊嶋 泰嗣 楽壇生活40周年 | CLASSICNAVI)した際、彼はしばらく遠ざかっていたヴィオラの演奏を再開し室内楽、ソロの両面で取り組んでいきたいと語っていた。それを早速、実行しているわけだが、楽器をタップリと鳴らしての雄弁な表現は自然な呼吸感で全員をリードし、密度の濃い仕上がりに結び付ける役割を見事に果たしていた。
(宮嶋 極)
公演データ
セイジ・オザワ松本フェスティバル2026
ふれあいコンサートⅡ-ドビュッシーと武満 徹-
8月28日(金)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)
ヴァイオリン:ジェニファー・ギルバート、直江智沙子
ヴィオラ:川本嘉子、豊嶋泰嗣
チェロ:宮田大、佐藤晴真
フルート:セバスチャン・ジャコー
クラリネット:リカルド・モラレス
ハープ:吉野直子
ピアノ:務川慧悟
プログラム
ドビュッシー:第1狂詩曲(モラレス、務川)
武満徹:「エア」(ジャコー)
ドビュッシー:チェロ・ソナタ(宮田、務川)
武満徹:「そして、それが風であることを知った」(ジャコー、川本、吉野)
ドビュッシー:弦楽四重奏曲ト短調(ギルバート、直江、豊嶋、佐藤)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










