リュー・テンヤオ 第2夜:オール・ショパン リサイタル

デリケートな音の呼吸でなめらかに歌い上げるショパン

中国出身のピアニスト、リュー・テンヤオは、昨秋にワルシャワで行われたショパン国際ピアノ・コンクールで第4位に入賞し、「コンチェルト賞」も受賞した。
現在、来日中のリューは、8月12日と13日にすべてショパン作品による公演を東京で開催。12日には、ショパンの2つの協奏曲を披露した。そして、13日はオール・ショパン・リサイタル。プログラムには、コンクールで演奏された作品が並んだ。

リュー・テンヤオの東京公演2日目。オール・ショパン・プログラムのリサイタルに臨んだ
リュー・テンヤオの東京公演2日目。オール・ショパン・プログラムのリサイタルに臨んだ(C)Atsushi Yokota

繊細な音楽の息遣いは、ショパン演奏では特に欠くことはできない。デリケートな音の呼吸を通してなめらかに歌い上げるメロディの表現は、リューの演奏の大きな魅力だ。
リサイタル前半は、曲間の拍手を控えて欲しいとのリューからのリクエストで、3曲続けて演奏された。

リューのリクエストで、前半の3曲は切れ目なく演奏(C)Atsushi Yokota

プログラム冒頭は、前奏曲 第15番「雨だれ」。一音一音静かに奏でられる同音連打は嬰ハ短調の中間部に入ると陰鬱な重みを帯び、その響きはピアノ・ソナタ第2番「葬送」を連想させる。続いて演奏されたピアノ・ソナタ 第2番において、リューは死の世界が迫る様子を描き出す。彼女は、第3楽章「葬送行進曲」にこのソナタにおけるクライマックスを置いた。彼女の指から紡ぎ出される人生の苦難や心の痛み、深い哀しみを描く沈鬱な葬送の調べは、中間部のやすらぎに満ちた美しい世界を導く。第4楽章では、ペダルを絶妙にコントロールすることによって、うっすらと音の混濁を醸し出し、音のヴェールをなびかせる。フィナーレの響きの記憶が鮮明なうちに、彼女は聴く者を「子守歌」の微睡の世界へといざなっていく。その演奏は、魂の平安を願う祈りに満ちていた。

ペダルの絶妙なコントロールで、音のヴェールをなびかせる。魂の平安を願う祈りに満ちたショパンを聴かせた
ペダルの絶妙なコントロールで、音のヴェールをなびかせる。魂の平安を願う祈りに満ちたショパンを聴かせた(C)Atsushi Yokota

休憩をはさんで、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。高らかに鳴り響くポロネーズ・リズムにのり、メロディを颯爽と表す。「3つのマズルカ」Op.59は、ルバートの妙! その自然な音の抑揚に、親近感を覚える。「舟歌」では、メロディをアリアのように美しく歌い上げていく。煌めくようなサウンドやゆったりと揺れ動く分散和音、そして細やかに描き分けられた内声部の表現は、音楽に深い陰影をもたらした。

プログラムを締めくくったのは、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の〝お手をどうぞ〟による変奏曲。シューマンも絶賛したショパン初期の傑作だ。作品が持つ華やかさとともに、ショパン特有の高貴な佇まいも見事に生み出していた。

リューは現在17歳。今後の彼女の成長が実に楽しみだ。

(道下 京子)

年齢を感じさせない高貴な演奏を聴かせたリューも、ハートマークを作って拍手喝采に応える姿はやはり17歳。彼女の今後の成長が楽しみになる演奏会だった (C)Atsushi Yokota

公演データ

リュー・テンヤオ 第2夜:オール・ショパン リサイタル

8月13日(木)19:00サントリーホール 大ホール

プログラム
ショパン
:前奏曲第15番「雨だれ」変ニ長調Op.28-15
:ピアノ・ソナタ第2番「葬送」変ロ短調Op.35
:子守歌 変ニ長調 Op.57
:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
:3つのマズルカOp.59
:舟歌 嬰へ長調Op.60
:モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の〝お手をどうぞ〟の主題による変奏曲Op.2

アンコール
ショパン
:ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」Op.18
:前奏曲集よりOp.28-23、24
:ノクターン第17番ロ長調 Op.62-1

他日公演
8月20日(木)19:00住友生命いずみホール(大阪)
8月23日(日)15:00山形テルサ テルサホール(山形)

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道下京子

みちした・きょうこ

桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。共著「ドイツ音楽の一断面――プフィッツナーとジャズの時代」など。「音楽の友」「ショパン」などの 音楽月刊誌や書籍、新聞、Web媒体、演奏会プログラムやCDの曲目解説など、ピアノのジャンルを中心に音楽経験を活かした執筆を行なっている。

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