高関健指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 すみだトリフォニーホール・特別シリーズ第1回

記念碑的名演――深い祈りに包まれた、反戦と追悼のレクイエム

ベンジャミン・ブリテン(1913~76)の「戦争レクイエム」は20世紀後半を代表する声楽作品のひとつ。折しも終戦記念日が迫るタイミングで、東京シティ・フィルは、熟成を深める高関健(常任指揮者)とのコンビで、没後50年を迎えた作曲家畢生(ひっせい)の大作に挑んだ。東京大空襲で惨劇に見舞われた墨田区に立つすみだトリフォニーホールへ、一時的に移ったシリーズの初回に、反戦・追悼を表す本作を選んだ事には大きな重みがあった。

高関健指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が、没後50年を迎えたベンジャミン・ブリテンの大作「戦争レクイエム」に挑んだ
高関健指揮 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が、没後50年を迎えたベンジャミン・ブリテンの大作「戦争レクイエム」に挑んだ(c)K.Miura

高関は既に他の楽団で、この作品を何度か取り上げてきた。プレトークでは時節柄、「スコアを読んでいても、テキストから戦場が思い浮かんで、いたたまれない気持ちになる」と語っていた。当日は、そんな高関の深い思いと過去の経験とが昇華して、安定感の高いリードで曲の本領を率直に示す力演に仕上がった。

プレトークで作品への想いを語る高関(c)K.Miura

改修中の本拠地・ティアラこうとうに代わって同ホールを選んだ利点も生きた。オーケストラは2分割され、指揮台を取り囲む12人の室内楽の後方に、大編成の本体と合唱団が並んだ。さらに客席3階に別働隊の児童合唱とオルガンを置いて「天から降る」感覚を狙う重層的な空間性は、同ホールのような大規模会場でこそ真価が発揮された。

高関は見通しよいアプローチで、複雑な要素を的確にさばいていく。ことに室内オーケストラのエッジの効いた克明な表情が、柔軟に伸縮して時に爆発する楽団本体と好対照をなし、メリハリを印象づけた。室内楽のトップはコンサートマスター戸澤哲夫の長女で、ソリストでも活躍する采紀が務め、思わぬ親子共演が注目された。

高関は見通しよいアプローチで、複雑な要素を的確にさばいていく
高関は見通しよいアプローチで、複雑な要素を的確にさばいていく(c)K.Miura

第一次世界大戦で散った若き詩人オーウェンによる詩句(英語)と、典礼文によるテキスト(ラテン語)を歌う3人の独唱者、コーラスは強い共感を示す熱唱を繰り広げた。ソプラノの木下美穂子とバリトンの大西宇宙は、高関と本作品を共演済み。合唱団の前に陣取った木下は、芯の強い声で「ラクリモサ」を切々と歌い上げ、「ベネディクトゥス」では浸透力ある歌唱で引きつけた。

左から大西宇宙(バリトン)、木下美穂子(ソプラノ)、宮里直樹(テノール)
左から大西宇宙(バリトン)、木下美穂子(ソプラノ)、宮里直樹(テノール)(c)K.Miura

初役となったテノールの宮里直樹と風格豊かな大西は、オペラ歌手としても第1級ゆえ、この宗教曲でもオペラティックな色合いが濃くなりがちだが、若き兵士らしい劇的表出力はみごと。東京シティ・フィル・コーア(合唱指揮・藤丸崇浩)と江東少年少女合唱団も、献身的な歌唱で演奏の熱量を高めた。第6章リベラ・メで、戦死した敵同士のイギリス兵(テノール)とドイツ兵(バリトン)が「共に眠ろう」と繰り返し、児童合唱とオルガンによる「楽園にて」の典礼文が重なる部分では、沈うつな緊張感がいっそう研ぎ澄まされて、深い祈りに包まれた。

客席の集中度は高く、高関と東京シティ・フィルにとっても記念碑的な名演になった。

 (深瀬満)

記念碑的な名演に拍手喝采が起こった
記念碑的な名演に拍手喝采が起こった(c)K.Miura
親子共演が話題となったコンサートマスターの戸澤哲夫と、室内楽のトップを務めた長女の采紀にも、改めて温かい拍手が送られた(c)K.Miura

公演データ

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 すみだトリフォニーホール・特別シリーズ第1回

8月13日(木)19:00すみだトリフォニーホール 大ホール

指揮:高関 健
ソプラノ:木下 美穂子
テノール:宮里 直樹
バリトン:大西 宇宙
合唱:東京シティ・フィル・コーア(合唱指揮:藤丸 崇浩)
児童合唱:江東少年少女合唱団(児童合唱指揮:伊藤 心)
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
コンサートマスター
:戸澤 哲夫
:戸澤 采紀(室内オーケストラ)

プログラム
ブリテン:戦争レクイエム Op.66

Picture of 深瀬 満
深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

連載記事 

新着記事