フェスタサマーミューザKAWASAKI2026 原田慶太楼 指揮 東京交響楽団フィナーレコンサート

お祭りの熱狂で1つに! 原田×東響が情熱的に駆け抜けたフィナーレ

原田慶太楼のプログラミングには柱をいくつか立て、それらを縦横に組み合わせながら、客席に一貫した聴後感を与える周到さがある。今日の第1の柱は記念年(アニバーサリー)。前半は没後80年のファリャ、生誕135年のプロコフィエフ、それぞれ30歳前後に書いた「若い作品」を並べ、ともに強い影響を受けた20世紀初頭のパリの輝きに2つ目の柱を置いた。1998年生まれの若い作曲家、山本菜摘の「宴」は生命力にあふれた〝お祭り騒ぎ〟のキーワードでファリャと、チャイコフスキーの交響曲は「ロシア」でプロコフィエフと、それぞれ対をなす。フェスタの幕切れに相応しいメニューだ。

原田慶太楼率いる東京交響楽団がフェスタサマーミューザKAWASAKI2026のフィナーレを飾った
原田慶太楼率いる東京交響楽団がフェスタサマーミューザKAWASAKI2026のフィナーレを飾った (c)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

ファリャは14型(第1ヴァイオリン14人)。原田はタクトを持たず、大きな身振りと音響で聴衆の耳を一気に引き寄せ、日本のオーケストラが必ずしも得意ではない「ゆらぎ」を懸命に求める。トゥッティ(総奏)では自ら手をたたいてあおり、コーダに向かって強烈なアッチェルランド(加速)で駆け抜けた。

プロコフィエフは12型に減らし、ピアノとの音響バランスを整えた。久末航は昨年、ブリュッセルのエリザベート王妃国際音楽コンクールで第2位(日本人ピアニストでは過去最高位)を得て注目されただけに、バリバリのテクニックで「大向こうをうならせる」演奏を期待した人もいたに違いない。だが知性の人、久末はプロコフィエフが担うモダニズムの世界に軽妙洒脱なタッチで迫った。スタインウェイをセピア色とも形容すべき落ち着いた音色で鳴らし、才気の裏に潜む抒情美まで漏れなく掬い上げる。第2楽章にはパリのサロンの香りを忍ばせ、第3楽章で原田がロシア風の主題を雄大に歌い上げて初めて、ヴィルトゥオーゾ(名手)にふさわしい強靭な技を前面に押し出した。アンコールのリストが色彩豊かに奏ででられた瞬間、プロコフィエフのセピア色が緻密に計算された解釈の反映だったと気づいた聴き手は多かったはずだ。

プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番でソリストを務めた久末航は、落ち着いた音色で知性的な演奏を聴かせた
プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番でソリストを務めた久末航は、落ち着いた音色で知性的な演奏を聴かせた (c)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

後半は再び14型。山本菜摘はサントリーホールの東響こども定期演奏会で原田が主導した「新曲チャレンジ・プロジェクト♪」の企画で才能を発掘された。「宴」は群馬交響楽団の委嘱新作で、2024年に原田が高崎芸術劇場で世界初演した。「外山雄三の〝ラプソディー〟の21世紀ヴァージョン」として構想され、「八木節」や「草津節」の旋律も現れる。都心の高層ビルやマンションが林立する一角に旧市街が残り、新旧住民が「お祭り」の熱狂で1つになる感じ。原田に焚き付けられた東響の熱演もあり、モダン&トラディショナルの融合が新鮮なグルーヴ(のり)を生んでいた。

山本菜摘「UTAGE~宴~」ではモダン&トラディショナルが融合し、新鮮なグルーヴが生まれた (c)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

チャイコフスキーの交響曲第5番は実測45分間の全楽章アタッカ(切れ目なし)で演奏された。第1楽章は過度の重さを避け、しみじみとした情感を大切にしながら次第に緩急のメリハリをつけ、自然なクライマックへ導いた。第2楽章も温かな感触を保つなか、「運命の動機」のクライマックスが突然の嵐のように屹立した。第3楽章のワルツがあまりエレガントに弾まなかったのは原田の解釈なのか、日本人の指揮者とオーケストラの組み合わせのウィークポイントなのか、この時点では判然としなかったが、第4楽章の展開から逆算すると、意図的だったと思える。序奏では抑制を効かせたまま、第1主題で加速と爆発が現れた。コーダも堂々と鳴り響かせながら、勢い任せは皆無でスビトピアノ(急激な弱音)などの細かな工夫を凝らし、現在の東響の持ち味を最大限に引き出してみせた。ロシア音楽の懐に分け入るようなアプローチのなか、首席トランペット奏者ローリー・ディランの底抜けに明るい音色に引っ張られた金管チームが、フランス音楽風の異彩を放ったのも面白かった。

現在の東響の持ち味を最大限に引き出したチャイコフスキーの交響曲第5番 (c)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

この日の東響ではフルート竹山愛、オーボエ荒木良太、クラリネット吉野亜希菜、ファゴット福士マリ子ら首席奏者をはじめとする木管楽器群の妙技が際立った。それぞれが突出するのではなく周囲の音を良く聴きながらチームプレーを盛り上げる背景には、今年4月に就任した新しい音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティがリハーサルでセクションごとの分奏を重視してきた成果が、早くも反映されているようだ。

もちろんアンコールは原田が東響正指揮者だった時期から、フィナーレコンサートの〝定番〟を目指して振り続けてきた山本直純の「好きです かわさき 愛の街」と決まっている。もはや指揮者が促す必要はなくなり、客席が盛大な手拍子で〝共演〟する。ウィーン・フィル「ニューイヤー・コンサート」のヨハン・シュトラウスⅠ世「ラデツキー行進曲」、ベルリン・フィル「ヴァルトビューネ・コンサート」のパウル・リンケ「ベルリナー・ルフト(ベルリンの風)」と並ぶ、〝ご当地アンコール〟に定着した。今後、原田以外がフィナーレの指揮を担う際も、このアンコールは「音楽の街かわさき」の象徴として、脈々と受け継がれていってほしい。

(池田卓夫)

最後はご当地アンコールとして定着した山本直純の「好きです かわさき 愛の街」で、大盛況のうちに幕を閉じた
最後はご当地アンコールとして定着した山本直純の「好きです かわさき 愛の街」で、大盛況のうちに幕を閉じた (c)平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
東京交響楽団 フィナーレコンサート

8月11日(火・祝)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:原田慶太楼
ピアノ:久末 航
コンサートマスター:小林壱成

プログラム
ファリャ:歌劇「はかなき人生」からスペイン舞曲第1番
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 Op.26
山本菜摘:UTAGE~宴~
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

ソリスト・アンコール
リスト:巡礼の年 第1年「スイス」から第9曲〝ジュネーヴの鐘〟

オーケストラ・アンコール
山本直純:好きです かわさき 愛の街

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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