四者四様の圧倒的な力でトランペットが輝き続けた
トランペットの俊英が輩出して脚光を浴びているまさにそのとき、当事者が4人も集結すれば注目される。チケットは完売でホールは熱気に包まれた。オープニングはジャズ界の若き名手、松井秀太郎作曲の「A Call Rising」。2007年生まれの西村大地による無伴奏のトランペットは、深い音色のファンファーレにはじまり、多様な色彩が広がって、いきおい期待値が上がる。
中田延亮指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢が加わり、まず「第1部」は、2009年生まれで天才の呼び声高い児玉隼人。ヘルテルのトランペット協奏曲第3番では、チェンバロを曽根麻矢子が弾いた。児玉のトランペットは、高音域に華麗な装飾が加わる技巧的なパッセージを、軽々となめらかに、また華やかに滑っていく。と思えば、短調の緩徐楽章では哀切な色合いが一気に深まり、鮮やかな音色の変化に脱帽した。
一方、20世紀中盤のジョリヴェの「トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ」では、ジャズの影響が明らかな、軽快だが複雑なリズムを躍動的に表現。児玉の自在のテクニックと、その結果としての音色と表現の多様性の、双方に驚かされた。ピアノは三浦友理枝。
巨匠セルゲイ・ナカリャコフによる「第2部」は、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番から。熱演する児玉桃のピアノ・ソロに対し、ほぼ対等のトランペットがおどけた表情を見せる。喜劇的でさえあるこの対話が、高度な技巧に裏打ちされているのが伝わる。続くアーバン「ヴェニスの謝肉祭の主題による変奏曲」は、素朴なメロディをベースに、変奏に変奏を重ねてどんどん高度になる。その超絶高難度なはずの演奏が自然に聴こえるのが、トッププレイヤーの証だろう。
休憩をはさんで「第3部」は刺激的な演奏だった。松井秀太郎のトランペットによる、松井がアレンジした「ハイドン トランペット協奏曲 〝JAZZ〟」である。第1楽章は意外と穏やかにはじまり、松井のトランペット・ソロもクラシカルだったが、にわかにドラムスが加わってリズミカルになると、トランペットも一転して即興を奏で、鮮やかなカデンツァに至った。異なるジャンルが交錯し融合して、違和感がないのがおもしろい。
第2楽章はピアノが提示した主題がビッグバンドに引き継がれ、松井の軽快で自在のトランペットが重なる。第3楽章ではタンゴのリズムも打ち出され、松井はどのスタイルにも柔軟に応じつつ、常に心地よく饒舌だった。
アンコールはチャイコフスキーの「白鳥の湖」より〝ナポリの踊り〟。ナカリャコフが力強く、児玉が優美に吹きはじめ、次第に速度を増すと、松井が加わって変奏し、各人が急速度で演奏して終わる。三様の音色と、三様に自在の演奏が、トランペットという楽器の幅と深さを知らしめたこの晩を象徴していた。
(香原斗志)
公演データ
松井秀太郎×ナカリャコフ×西村大地×児玉隼人
トランペットの祭典
8月4日(火)19:00東京オペラシティ コンサートホール
トランペット:松井秀太郎、セルゲイ・ナカリャコフ、西村大地、児玉隼人
指揮:中田延亮
ピアノ:児玉桃、三浦友理枝
チェンバロ:曽根麻矢子
松井秀太郎カルテット(ピアノ:壷阪健登 ベース:小川晋平 ドラムス:きたいくにと)
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
プログラム
[オープニング 西村大地]
松井秀太郎:A Call Rising(新作)
[第1部 児玉隼人]
ヘルテル:トランペット協奏曲第3番
ジョリヴェ:トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ
[第2部 セルゲイ・ナカリャコフ]
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
アーバン:「ヴェニスの謝肉祭」の主題による変奏曲
[第3部 松井秀太郎カルテット]
松井秀太郎:ハイドン トランペット協奏曲〝JAZZ〟
アンコール
チャイコフスキー(松井秀太郎編):ナポリの踊り
かはら・とし
音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。










