ヤクブ・フルシャ指揮 東京都交響楽団 第1002回定期演奏会Cシリーズ

フルシャの故郷チェコの音楽を集めたプログラムで、作品のインターナショナルな側面を打ち出す

チェコ出身のヤクブ・フルシャが7年振りに東京都交響楽団に戻って来た。バンベルク交響楽団の首席指揮者を務める彼は、2025年に英国ロイヤル・オペラの音楽監督に就任する、世界が最も注目する40歳代指揮者の一人である。都響では2010年度から2017年度まで8年間、首席客演指揮者を務めた。

ヤクブ・フルシャが7年振りに都響に登場 ©︎Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供(6月29日の公演より)
ヤクブ・フルシャが7年振りに都響に登場 ©︎Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供(6月29日の公演より)

この日は、スメタナ、ヤナーチェク、ドヴォルザークという彼の故郷チェコの音楽が取り上げられた。まずはスメタナの歌劇「リブシェ」序曲。「リブシェ」はスメタナにとって4作目のオペラ。金管楽器の晴れやかなファンファーレで始まり、祝祭的であり、「わが祖国」を明るく華やかにした感じ。16型(第1ヴァイオリン16名)での立派な演奏。オーボエのソロも美しい。スメタナの生誕200周年にふさわしい作品を日本の聴衆に紹介してくれたフルシャに感謝。

続いて、ヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」をフルシャ自身が演奏会用に編んだ大組曲が日本初演された。フルシャは快適なテンポで流れ良く音楽を進める。そしてこの作品独特の自然の描写などを鮮明に表現する。例えば、弦楽器のコル・レーニョ(弓の木の部分で弦を叩く奏法)などもはっきりと鳴らさせる。カンタービレはもたれることなく歌われる。つまり、鮮やかに洗練されたオーケストラとともに作品のモダンな側面が明確に描かれていた。ただし、オペラ自体が90~100分ほどの作品であるが、フルシャ編の大組曲は40分ほどかかり、声による聴きどころを欠く分、いささか長く感じられた。

最後はドヴォルザークの交響曲第3番。1874年にスメタナの指揮により初演されたものの、楽譜の出版は遅れ、作曲者の死後、1911年に漸く出版された。3つの楽章からなり、ドヴォルザークらしい美しい旋律が現れるが、第2楽章ではワーグナーの影響を感じさせるところもある。演奏はすっきりと整えられ、重厚感もある。フルシャは作品の真価を示そうとしているように思われた。

フルシャの故郷チェコの作品の真価を都響と示した意欲的なプログラムだった ©︎Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供(6月29日の公演より)
フルシャの故郷チェコの作品の真価を都響と示した意欲的なプログラムだった ©︎Rikimaru Hotta/東京都交響楽団提供(6月29日の公演より)

フルシャにとってお国ものを並べたプログラムであったが、フルシャ&都響の演奏からは、民族色よりも、作品の普遍性(インターナショナルな側面)がより強く感じられた。チェコの指揮者が、チェコ音楽を、民族色に寄りかからないで再現することに大きな意味があるに違いない。
(山田治生)

公演データ

東京都交響楽団 第1002回定期演奏会Cシリーズ
2024年6月28日(金) 14:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:ヤクブ・フルシャ
管弦楽:東京都交響楽団

プログラム
スメタナ:歌劇「リブシェ」序曲 
ヤナーチェク(フルシャ編曲):歌劇「利口な女狐の物語」大組曲 (日本初演)
ドヴォルザーク:交響曲第3番 変ホ長調 Op.10

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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