上岡敏之指揮 読売日本交響楽団 第659回定期演奏会

強固に貫かれた〝上岡テンポ〟! 賛否両論巻き起こすエキサイティングなコンサート

6月の読響定期。上岡敏之の指揮でグリーグのピアノ協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第8番が披露された。

読響定期の指揮台に立った上岡敏之
読響定期の指揮台に立った上岡敏之 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

グリーグの独奏は、当初93歳のスペインの巨匠ホアキン・アチュカロが予定されていたが、公演前日に転倒し負傷したため出演が叶わず、田部京子が急遽代役を務めた。いくら演奏経験があったとしても、即座に定期の本番で弾くのはさぞかし難儀であろう。まずは急な代役を堂々とこなした田部に大きな拍手を送りたい。 

演奏自体は、第1楽章からテンポの遅い悠然たる音楽が続き。田部もじっくりと丁寧に曲を紡いでいく。第2楽章もたっぷりと奏され、第3楽章の遅い部分も同様。型にハマったグリーグ演奏とは全く異なる新鮮な表現で、チャイコフスキーやラフマニノフの協奏曲を思わせるスケール感や広がりが表出された。

グリーグのピアノ協奏曲では、急遽代役でソリストを務めた田部京子が堂々とした演奏を披露。上岡は、型にハマったグリーグ演奏とは全く異なるアプローチで広がりある音楽を聴かせた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

こうした〝上岡テンポ〟は、後半のショスタコーヴィチでより強固に貫かれた。特に第1楽章は極端にテンポが遅く、暗闇を手探りで進むような運びが極めてユニークだ。それでいて緊張感は保たれ、クライマックスは壮大な響きで圧倒する。第2、3楽章は想像の範囲内。ここでは読響のダイナミックなサウンドがモノを言う。第3楽章最後の凄絶な迫力も圧巻の一語。以後はまたじっくりと歩が進められていく。
正確に測ったわけではないが、プログラムに約61分と書かれた曲が約86分かけて演奏された。このテンポで緊迫感と高いクオリティを維持した演奏陣は立派だし、第1楽章終盤のイングリッシュ・ホルンをはじめとする読響の各ソロも見事だった。

ショスタコーヴィチの交響曲第8番は、遅いテンポで緊迫感と高いクオリティが維持された
ショスタコーヴィチの交響曲第8番は、遅いテンポで緊迫感と高いクオリティが維持された ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

が、、、グリーグとは違ってどこか釈然としない感覚が残った(中でも第1楽章)。遅いテンポだけではない。曲には〝あるべき姿や流れ(それを「偏狭な先入観や思い込み」と言われても反論できないが……)〟が存在すると思う。すなわち「ショスタコの8番はこんな曲なのだろうか?」といった疑問が付き纏(まと)って離れないのだ。一時期のポゴレリッチのショパン演奏のような、「どこか違う」と思う人も「新鮮で面白い」と思う人もいるような音楽……。終演後に(オペラ以外では珍しく)盛大なブラボーとそれを凌ぐほどのブーイングが飛び交っていたのもその証しだろう。しかし今日本で、こうした賛否両論を生むような演奏─それは読響の高い技量あってこそ可能だったとも思えるが─を敢行する上岡は、ある意味凄い。これは昨今稀なほどエキサイティングなコンサートだった。

(柴田克彦)

終演後、盛大なブラボーとそれを凌ぐほどのブーイングが飛び交ったが、これも上岡と読響の手腕があってこそ。稀にみるエキサイティングなコンサートだった
終演後、盛大なブラボーとそれを凌ぐほどのブーイングが飛び交ったが、これも上岡と読響の手腕があってこそ。稀にみるエキサイティングなコンサートだった ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

公演データ

読売日本交響楽団 第659回定期演奏会

6月23日(火)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:上岡敏之
ピアノ:田部 京子
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調 Op.65

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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