クリストフ・コンツの非凡な才能を強く印象づける、鮮烈な日本フィル・デビュー
ウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席を長く務め、指揮者として現在、世界の一流オーケストラから引く手あまたのクリストフ・コンツが、フェスタ サマーミューザで日本フィルと初共演した。
ヨハン・シュトラウスⅡ世「こうもり」序曲から、その実力をいかんなく発揮した。沸き立つようなリズム、華やかなワルツ、オーボエの哀愁を帯びた旋律。これぞシュトラウス、これぞウィーンという雰囲気が醸し出される。
ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」の周防亮介は、持ち前の美音に力強さが加わり、実に聴き応えがあった。重音も積極的に攻めていく。自身優れたヴァイオリニストであるコンツは周防を細やかに支え、独奏とオーケストラをなめらかにつなぐ。第1楽章のカデンツァ(ヨアヒム作)では周防が気迫のこもった集中力をみせ、ホールは静まり返った。
オーボエの美しいソロに始まる第2楽章では、周防が艶やかで芯のある音で主題を奏で、中間部はコロラトゥーラのように華やかに歌う。コンツもオペラ指揮者としての豊富な経験を思わせる丁寧さで、歌手を支えるように周防をフォローした。終楽章は次第に熱を帯び、コンツ、日本フィルとひとつになって堂々と結んだ。
周防にあえて望むなら、集中力と熱気に富む一方、表現が時に一様に感じられたこと。カデンツァの後、ドルチェで奏でたヴァイオリンの天上的な美しさが忘れ難い。あれほど多彩な表情を持つ奏者だけに、もう少し変化があればとも思った。
後半のブラームスの交響曲第1番は、コンツの力量を示す名演であった。やや速めのテンポで推進力がある。骨格はしっかりしているがゴツゴツせず、流麗で磨き上げられた音。何より内声が豊かで、弦と管が有機的に結びつき、ブラームスの緻密な構造を浮き彫りにする。ヴァイオリンの艶やかな美しさをはじめ、全体が格調高い響きに満たされた。
終楽章は最も充実していた。威厳ある序奏から、アルペンホルンを思わせるホルン、清々しいフルート、トロンボーンのコラールへと雄大に進む。主部に入ると弦の第1主題を支える内声も充実している。再現部からは切迫感を増し、一気に高揚。壮大な頂点を築く。
コーダは白眉。ピウ・アレグロで速度を上げて突き進む逞しい推進力、金管のコラールの壮麗なハーモニー。最後に5回響き渡るハ長調の和音。その一つひとつの素晴らしさを何と言えばよいのか。圧倒的な力感、強靱でありながら澄み切った美しさ、そしてすべてが満たされるような幸福感。ハ短調の重々しさから解き放たれ、希望へつながっていくようなコーダであった。
オーケストラの一部に疵はあったものの、コンツの輝かしい将来を確信させる素晴らしい指揮ぶりであった。
(長谷川京介)
公演データ
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
日本フィルハーモニー交響楽団
8月9日(日)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クリストフ・コンツ
ヴァイオリン:周防 亮介
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:扇谷 泰朋
プログラム
ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68
はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。










