ポスト就任後初 山田和樹、バーミンガム市響と凱旋公演

山田和樹と名門バーミンガム市交響楽団 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ
山田和樹と名門バーミンガム市交響楽団 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ

 山田和樹がこの4月に首席指揮者兼アーティスティック・アドバイザーに就任した英国・バーミンガム市交響楽団を率いて日本公演を行い、注目を集めた。取材した東京での最終公演(6月30日、サントリーホール)についてリポートする。(宮嶋 極)

 

山田の指揮姿、ステージでの立ち居振る舞いを見ていてやはりこの人は大物だなあ、とつくづく感心してしまった。かつてサイモン・ラトルやアンドリス・ネルソンスといったビッグネームの指揮者がポストを持っていた英国の名門オケを首席指揮者として率いての凱旋公演にもかかわらず、気負った様子はまったくなかったからである。日本のオケを振った時と変わらず、肩の力が抜けた様子でオケを自在にコントロールし、自らも楽しんで指揮しているように映った。とはいえ、気合いと気迫は十分であったことは疑う余地もなく、演奏の完成度は高かった。

 

バーミンガム市響を生で聴いたのは2016年の前回来日以来のことである。その時も山田が指揮をしたが、オケのサウンドは随分と変化したように感じた。全体に明るくてやわらかな響きで、ブラームスのヴァイオリン協奏曲冒頭のニ長調の和音が鳴った時、その温もりを感じさせる響きに思わずハッとさせられたほどだ。以前はもっと硬質で現代的なサウンドだったような気がしたが、筆者の記憶違いであろうか。

 

樫本のソロはさすがコンマス(※ベルリン・フィル)というもので、自らの演奏でオケ全体を自然にリードしていく様が実に面白かった。第3楽章まで来ると完全に樫本のペースでアンサンブルが進んでいく感じで、山田も鷹揚(おうよう)にそれに任せている様子。ソリスト専門でやっているヴァイオリニストとは一線を画す性格の見事なソロであった。鳴りやまぬ喝采にバッハの無伴奏パルティータ第3番から2曲目「ルール」をアンコールした。

ソリストを務めた樫本大進 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ
ソリストを務めた樫本大進 (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ

後半はラフマニノフの交響曲第2番。今年はこの作曲家の生誕150年、没後80年ということでその作品に触れる機会は多いが、そうした中でも特筆すべき好演であった。弦楽器セクションの明るく豊かな鳴りと木管楽器のソロイスティックな妙技、突出しないがしっかりと存在感を発揮する金管・打楽器セクション。第1ヴァイオリンやチェロ、木管各パートが華やかに旋律を歌い上げつつ、すべてのセクションが絶妙なバランスを保ちながら柔軟にアンサンブルを組み立てていき、大きな盛り上がりを構築していったのは見事であった。

 

終演後、大いに沸く聴衆に応えてエルガーの「夜の歌」管弦楽編曲版をアンコール。ラフマニノフの華やかさから一転、落ち着いた深みのあるサウンドを響かせ、バーミンガム市響が持つさまざまな可能性の一端を披露し締めくくった。オーケストラが退場しても盛大な拍手は鳴りやまず、山田は素晴らしいソロを聴かせたフルートとクラリネットの首席奏者を伴ってステージに再登場し、大喝采に応えていた。

バーミンガム市響の来日はじつに7年ぶり (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ
バーミンガム市響の来日はじつに7年ぶり (C)千葉秀河/ジャパン・アーツ

公演データ

【山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団日本公演】

6月29日(木)19:00 サントリーホール

ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21(ピアノ:チョ・ソンジン)
エルガー:交響曲第1番変イ長調Op.55

6月30日(金)19:00 サントリーホール

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.77(ヴァイオリン:樫本 大進)
ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調Op.27

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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