東京フィル第992回サントリー定期シリーズ

歌劇場仕込みの巧みな演出、熱狂のオール・チャイコフスキー・プログラム

イタリアの指揮者とチャイコフスキーは相性がいい。強じんなカンタービレと激しいパッションが、ロシアの名品がはらむ熱量と反応し、火花を散らす様子は容易に想像がつく。首席指揮者アンドレア・バッティストーニを迎えた東京フィルの11月定期は、まさにその公式通りとなった。

 

とはいえ、そこに一ひねり加えるのがバッティストーニ流。シェイクスピアと関係の深い3つの管弦楽作品を並べた周到なプログラミングは、文学にも通じた知性派らしい。歌劇場仕込みの巧みな演出力を随所で発揮して、客席を熱狂させた。

客席を熱狂させた指揮者のアンドレア・バッティストーニ 撮影=上野隆文/東京フィルハーモニー交響楽団
客席を熱狂させた指揮者のアンドレア・バッティストーニ 撮影=上野隆文/東京フィルハーモニー交響楽団

シェイクスピアにまつわる管弦楽作品をスタイリッシュに快演 

演奏会の前半と後半、それぞれの始めに置かれた幻想曲「テンペスト」、幻想序曲「ハムレット」は実演に触れる機会が少ない。バッティストーニは各場面の情景を鮮やかに対比させて効果を上げた。緩徐部分で丁寧に弱音を駆使する一方、クライマックスでは、たたみ込むような筋肉質のドライブでオーケストラを引っ張り、スタイリッシュな快演に仕上げた。ホルンの高橋臣宜らのソロもさえ、整ったアンサンブルが快適だ。

 

ラストの幻想序曲「ロメオとジュリエット」は、冒頭から見通しの良いドラマ展開。両家の争いを速いテンポで躍動的に扱い、「愛の主題」では情熱的な歌い口を全開にして、一気呵成(かせい)に突き進んだ。

佐藤晴真がソリストを務めた「ロココの主題による変奏曲」撮影=上野隆文/東京フィルハーモニー交響楽団
佐藤晴真がソリストを務めた「ロココの主題による変奏曲」撮影=上野隆文/東京フィルハーモニー交響楽団

ふくよかな美音の「ロココの主題による変奏曲」

これらに挟まれた「ロココの主題による変奏曲」では、超難関のミュンヘン国際音楽コンクールを制した佐藤晴真がソロを務めた。ノーブルで繊細な奏風を身上とする佐藤に、この作品はベストマッチ。珍しい原典版のスコアを用い、余裕ある技巧をベースに、ふくよかな美音を振りまいた。

 

中程度の長さの4作品を並べたオール・チャイコフスキー・プロ、後味が良い爽快なコンサートになった。
(深瀬満)

 

指揮:アンドレア・バッティストーニ
チェロ:佐藤晴真

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第992回サントリー定期シリーズ
〈チャイコフスキー没後130年~シェイクスピアとチャイコフスキー〉

11月10日(金)19:00サントリーホール

プログラム
チャイコフスキー:幻想曲「テンペスト」
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲
チャイコフスキー:幻想序曲「ハムレット」
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
(ソリスト・アンコール)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番よりサラバンド

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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