パブロ・エラス・カサド指揮 NHK交響楽団第2006回定期演奏会Bプログラム

エラス・カサド、N響で初めて自国スペインの音楽を振る!〜繊細かつ鮮烈に

1977年グラナダ生まれの指揮者パブロ・エラス・カサドは2009年以来たびたびNHK交響楽団に客演してきたが、自国スペインの音楽を披露するのは今回が初めて。1907年から1935年までの間に作曲された近代管弦楽曲を並べ、「スペイン」の題名を持つラヴェルの狂詩曲(1907〜1908)、第3楽章にスペイン風のメロディーをとり入れたプロコフィエフの協奏曲(1935)をファリャの代表作「三角帽子」(1916〜1919)全曲と対比させた。

N響との共演で自国スペインの音楽を初披露した指揮者のエラス・カサド 写真提供:NHK交響楽団
N響との共演で自国スペインの音楽を初披露した指揮者のエラス・カサド 写真提供:NHK交響楽団

ラヴェルは極めて繊細な弦の音色で、聴く者の耳を惹(ひ)きつけた。トランペットの菊本和昭、クラリネットの松本健司、コンサートマスター郷古廉、ヴィオラの村上淳一郎ら首席奏者のソロの魅力も存分に際立たせた後「祭り」で色彩感を一気に爆発させた。

 

ヴァイオリンのアウグスティン・ハーデリヒは何度か来日、澄み切った音色と内面に深く沈む真摯(しんし)な演奏姿勢で高い評価を得てきたが、N響定期公演への出演は今回が初めてだ。第1楽章を美しく繊細、柔らかく歌いこみ、リリシズムを浮き上がらせていく。エラス・カサドの〝付け〟(協奏曲の伴奏指揮)も十分に繊細だが、モダニズムの側面をしっかりと打ち出す。第2楽章ではさらなる歌心を発揮、管の首席たちとの室内楽的会話も楽しみつつ、音程とリズムはどこまでも正確。第3楽章では力強さと切れ味を増し、クライマックスを決めた。

N響定期公演に初登場したハーデリヒ 写真提供:NHK交響楽団
N響定期公演に初登場したハーデリヒ 写真提供:NHK交響楽団

N響の音色と機能性を尊重した2024年東京ヴァージョンの「三角帽子」

パリでディアギレフが主宰したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のために作曲した「三角帽子」について、エラス・カサドは「モダニズムや前衛といった点で後期ロマン派よりストラヴィンスキー、サティに近い総合芸術の傑作。フラメンコなどの民族音楽とも共通する『内面に向かう情熱』がスコアを複雑にしていますが、それはむしろ、日本人には理解しやすい類いの音楽ではないでしょうか」と、前日の取材で私に語った。

 

今回の独唱には「メゾソプラノではなく低音の充実したソプラノ」を望み、二期会のソプラノ吉田珠代とN響の初共演が実現。果たして、パイプオルガン真下から光沢ある美声が聴こえてきた。エラス・カサドはリズムをしっかりと刻んで堅固な土台をつくり、その上に様々な音の動きや色彩、和声を載せ、近代管弦楽の妙を克明に再現する。スペインの情緒だけでなく精神の内面を丁寧に掘り下げながら、随所に切れの鋭さもみせる。何よりN響独自の音色と機能性を尊重し、マーラー・チェンバー・オーケストラと2019年に録音した全曲盤とは異なる味わいの「2024年東京ヴァージョン」に仕上げた手腕を高く評価したい。冒頭、楽員による「オレ、オレ!」の掛け声も気合満点だった。

(池田卓夫)

「三角帽子」ではソプラノの吉田がパイプオルガン真下から光沢ある美声を聴かせた 写真提供:NHK交響楽団
「三角帽子」ではソプラノの吉田がパイプオルガン真下から光沢ある美声を聴かせた 写真提供:NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団第2006回定期演奏会Bプログラム

2024年2月14日19:00サントリーホール

指揮:パブロ・エラス・カサド
ヴァイオリン:アウグスティン・ハーデリヒ
ソプラノ:吉田珠代
コンサートマスター:郷古廉

プログラム
ラヴェル:スペイン狂詩曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番
ソリストアンコール
ガルデル(ハーデリヒ編):ポル・ウナ・カベーサ
ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」

池田 卓夫
池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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