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むねつぐ通信

くらしの中にクラシック

くらしの中にクラシック
~音楽と共に生きる経営者の物語 第2回

カレーハウスCoCo壱番屋の創業者で現在は名古屋にある宗次ホールの代表を務める宗次德二さんがクラシック音楽と歩んできた軌跡をたどる連載の第2回。今回は感動的なホールの杮落とし公演から今までに出会ったお客さまなど、地域に愛されるホールになるまでの道のりについて伺った。

3回泣いた杮落とし公演

2007年3月29日、いよいよ完成した宗次ホールで杮落とし公演の日を迎えた。

 

「早朝、妻から電話で『あなたおめでとう!』と言われ、その言葉に泣いてしまいました。また、私の後に株式会社壱番屋の代表取締役社長を引き継いだ浜島俊哉社長(当時)からお祝いにもらったプレゼントをお客様の前で開封し、ヴァイオリン型のピンブローチを目にした時にもう一度泣きました。それから開演前にステージ壇上でお礼のスピーチをし、直後にお客様の前で妻と抱擁した時にも……全部で3回泣きましたね。たくさんのお客様に来ていただけて、それはもう一日中感激の日となりました」

宗次ホールの杮落とし公演当日。左から浜島社長、妻、私、新さん(ピアノ)、五嶋龍さん(ヴァイオリン)提供:宗次ホール
宗次ホールの杮落とし公演当日。左から浜島社長、妻、私、新さん(ピアノ)、五嶋龍さん(ヴァイオリン)提供:宗次ホール

あの日から17年、ホールでは日本一多くのコンサートを開催し、宗次さん自ら入り口に立ってお客様に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」を言う日々が続いている。

 

「平日のランチタイム、スイーツタイムのコンサート、そして週末のコンサートを合わせて年間280回以上あります。開館当初はお客様が40人くらいしか入らないこともありましたが、今では平日でも平均して65%程度は埋まるようになりました。理想とする目標は90%までいきたいところですが、現在もチャレンジ中です。

クラシックのコンサートに来られるのは比較的時間とお金に余裕がある高齢の方なので、健康やその他の事情で来られなくなることもあります。そのぶん若い方が来てくれるとうれしいです。

もうずいぶん前の話になりますが、アンケートハガキを読んでいたら、若い女性の方が『今日聴かせていただいた音楽は素晴らしかったけれど、3,500円のチケット代は私の1週間分の食費です』と書いていて凄い方だなぁと感動したことがあります。自分が音楽をやっているならともかく、まるっきり縁がないのにクラシックを聴きに行こうという若い人は少数派ですからね。そんなお金があったら何に使うかは人それぞれですが、クラシックコンサートを聴きに来てくれたなんて、凄いことだと思いました。

彼女に限らず、私はコンサートに来られるお客様に対して感謝と強い敬意をもっています。だからできるだけ入り口に立ってお客様をお迎えし、お見送りをしたいんです」

地域や音楽家に愛されるホールをめざして

「入り口に立っていると『名古屋のこの場所にホールができたことがうれしい!』と声をかけてくださる方もいて、ホールが地元の方に愛されているなと感じます。

今年の2月末に、しらかわホール(三井住友海上しらかわホール)が閉館してしまったのは本当に残念でした。あのホールは名古屋フィルハーモニー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、中部フィルハーモニー交響楽団、愛知室内オーケストラといった地元を代表するオーケストラが定期公演で使用していましたし、東京の紀尾井ホールと並ぶくらいのグレードの演奏会がたくさん開催されていました。そんな地域にとっての宝ともいえるホールを企業の都合で閉館してしまうなんて信じられない。宗次ホールもそうですが、もともと地域貢献の意味合いで始めたものを、利益が出ないからと言ってむやみにやめることはできないと私は強く思うのです。

クラシック音楽ホールはココイチの経営をしていた時のように右肩上がりに業績が伸びていくことはないですが、それでも地道にお客様を増やしていきたいと思っています。若い演奏家や有名だけれど、名古屋ではまだ知られていないような演奏家に出演機会を提供したいです」

出演者に居心地の良い空間を提供する

「おかげさまで音楽家からこのホールで演奏したいと選んでもらえることも増えました。一方、こちらからお声がけをしてもお叱りを受けるようなことはなく、むしろ喜ばれることが多いので、ありがたく思っています。

出演者には本番前も後も心地よく過ごしてもらうため、5階にある楽屋の通路には絨毯をはり、ホテルの内装のような設えにしました。楽屋にはシャワー室があり、演奏で汗を流した後に使っていただくこともできます。それから、出演者にはココイチカレーの出前を頼んでご馳走したりもするんですよ!」

 

ステージだけでなく舞台裏にも、飲食業で常に現場に立ってお客様と接してきた宗次さんならではの視点が生かされていた。こういうところに地域の方がリピートしたくなり、音楽家のお気に入りになってしまうホールの秘訣があるのだ。(第3回に続く)

文:野崎裕美

宗次ホール
住所:愛知県名古屋市中区栄4丁目5-14
公式webサイト:https://munetsuguhall.com
Instagram: @munetsugu_hall
X: @munetsuguhall
facebook: munetsuguhall
宗次ホール Youtube チャンネル

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