ホルンの響きに誘われて「夏の夜の夢」を満喫
フェスタ サマーミューザKAWASAKI、今年のN響(コンサートマスター郷古廉)は下野竜也の指揮で、狩を象徴する楽器ホルンをフィーチャーした夏にふさわしいコンサート、題して「角笛に誘われる夏の宵」である。
ハイドンの交響曲第73番「狩」の第1楽章、アダージョの序奏は何かが始まる予感を感じさせ、主部は生き生き。16分音符がぴたりと揃って強弱やアクセントを際立たせる。随所に現れる全休止は様々な表情を見せ、メヌエットはちょっと気取っていて表現のめりはりが効いている。第3楽章の主部はダンサブル。長閑な風情のトリオの最後でフルートが即興的なカデンツァを奏で(木製の楽器の柔らかな音色がすてきだ)、元気いっぱいの終楽章「狩」は野趣溢れるホルンが印象的。再現部の終わりの和音を派手に奏でると思わず客席からどっと拍手が来た。実際のコーダが消え入るように終わって下野が客席を振り返り、「終わり!」と一言。ハイドンと下野のユーモラスな策略に客席から朗らかな笑いが起きた。
続いて世界的なホルンの名手アレグリーニをソリストに迎えたリヒャルト・シュトラウスの協奏曲第2番。第1楽章冒頭は勇ましく吹き始める人が多いが、柔らかく深みのある音色と流れるようなフレージングで精妙な表現が際立ち、弦がロマンティックな色彩を添える。第2楽章が絶品。独奏ホルンと木管のやり取りが夢心地の世界へと誘う。終楽章もソロは驚嘆すべき技術と表現力を発揮して会場を大いに沸かせた。アレグリーニは観客の歓声のなかをオーケストラのホルンセクションのところへ移動し、3人のホルンのメンバーとロッシーニの「狩のファンファーレ」を披露。さらに一人で「鳥の歌」を朗々と吹き鳴らした。
そしていよいよメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」。序曲の冒頭、妖精の羽音をイメージさせる弦の細かなパッセージは徹底して抑制され、最初のフォルティッシモで思い切りはじける。弦による第2主題はリリカル、曲が進むにつれてあたりの空気が澄むように表現の純度が上がっていく。「スケルツォ」は整然としてリズムに愉悦があり、長いスパンのクレッシェンドやスフォルツァンドが色濃い陰影を作る。「間奏曲」は細かなデュナーミクとアゴーギクがライサンダーを失ったハーミアの揺れる心を示し、拍子とテンポが変わった後半、ファゴットなどによるボトムと農民たちの行進がユーモラス。「夜想曲」の弦の美しさは格別だ。「結婚行進曲」はトランペットを始めとする金管の重厚な、そして弦の総奏の充実したサウンドがすばらしい。明確なアーティキュレーションとともに多層的な響きが良く整理され、お決まりの陳腐なイメージとは違う本物の演劇の一コマを想起させる質の高い演奏だった。アンコールにヨハン・シュトラウスの「狩」を賑やかに奏でて、夏の夜の幻想的な夢に満ちたコンサートを終えた。
(那須田務)
公演データ
フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2026
NHK交響楽団
8月3日(月)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:下野竜也
ホルン:アレッシオ・アレグリーニ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
ハイドン:交響曲第73番 ニ長調 Hob.I:73「狩り」
リヒャルト・シュトラウス:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調
メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」Op.21&Op.61から
序曲 ― スケルツォ ― 間奏曲 ― 夜想曲 ― 結婚行進曲
ソリスト・アンコール
ロッシーニ
:狩りのファンファーレ(N響ホルンセクションと共に)
:鳥の歌
オーケストラ・アンコール
ヨハン・シュトラウスⅡ世:ポルカ「狩り」Op.373
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。










