ピアニスト三舩優子

深化を続ける実力派ピアニスト、三舩優子が、縁の深いハクジュホール(東京・渋谷区)で10月28日、待望のリサイタルに臨む。バッハからヒナステラまで多彩なプログラムは、幅広いレパートリーを誇る三舩ならでは。7年ぶりの同ホールでのリサイタルに向けた意気込みなどをうかがった。

(聞き手 深瀬 満)

今年10月に愛着のあるハクジュホールでリサイタルを行うピアニストの三舩優子
今年10月に愛着のあるハクジュホールでリサイタルを行うピアニストの三舩優子

愛着あるハクジュホール

——ハクジュホールには設立前から、アドバイザーとして関わられたそうですね。どんな役割だったのでしょう?

三舩 ホールを作る際にアーティストの意見も聞こうということで招かれ、響きや内装のアドバイスをしました。建設会社やデザイナーのプレゼンを聞いて、意見を出すとか。中のデザイン自体はフランス人が手掛けていて、横の壁にある波のような模様が特徴ですよね。

——そうなるとハクジュホールはホームグラウンドみたいなものですね

三舩 響きがいいし、会場のピアノやスタッフの方々に安心感があります。サイズも大きすぎず、響き方が良いセット地点が見つかったので、何の不安もなく自分の音楽のことだけを考えて弾けます。歌とか弦楽器の演奏では定評がありますが、ピアノもいいですね。コロナ禍前の2019年に、デビュー30周年で弾いて以来となります。

ホームグラウンドともいえる会場で披露するこだわりのプログラム

——愛着ある会場に向けて、今回はどんな趣向でプログラムを考えたのですか

三舩 バッハのシャコンヌを久しぶりに、そしてヒナステラのソナタをどこかでと、始めと終わりが決まり、その中を埋めていった感じでしょうか。一貫したテーマを決めるより、むしろバラエティをもって行くパターンで、なるべく偏らずいろいろなスタイルの曲を入れたかったのです。

——ブゾーニ編曲のバッハのシャコンヌは若い頃から弾いてこられたそうですが、ここにきて解釈に変化はありましたか?

三舩 普段、家では弦楽器、特にヴァイオリンの曲をよく聴きます。だからヴァイオリンといえばバッハのシャコンヌ、という連想でしょうか。ブゾーニは緻密に編曲していて、ぜひピアノでも弾きたかった。毎回、必ず発見があります。年を経ると、身体の脈拍が遅くなるように、いい意味で落ち着きが出てきて、より呼吸が深くなります。そうなると1音1音により息を吹き込める。トランスクリプションはとても好きなんです。他の楽器へのあこがれがあるのでしょうね」

深瀬満氏のインタビューに応える三舩優子

——続くブラームスの3つの間奏曲作品117は最晩年の傑作です。この曲は逆に、歳を重ねてから弾こう、と決めていらしたそうですね。

三舩 学生時代に弾いてはいましたが、本当の意味で理解はできなかったと感じます。だから将来にとっておこう、と。光と影の交錯に魅かれるんです。今回も華やかさより、なるべく暗い曲想のもので、ということで選びました。ここ10年ぐらいでやっと息遣いや、ブラームスの思いに共感できるようになってきました。でも、まだ自分は若いかなという気がします。フレーズの長さ、音符と音符の間の空間や間合いの息が長い。歌手だったら息切れしそうなくらい。だから私も、呼吸や体の使い方を大事にして演奏します。

フランス作品の演奏では師匠の安川加寿子の教えが軸になっている

——前半の最後はラヴェルの「ラ・ヴァルス」。新しいレパートリーだそうですね。

三舩 2台ピアノのイメージが強くて、整理するのが難しい、ポイントが見えにくい曲という印象を持っていました。でもバイオリズムが合ったようで、今めぐってきた、という直感がありました。個性的な曲で、物語をかたる楽しさがあります。ワルツの乗りやすさ、フランス物の良さを出せればと思います。

——フランスものには、師匠の安川加寿子先生の教えがあったとのことですが

三舩 先生のフランスものやショパンは、巷の演奏とはまったく違うタイプなんです。それが自分の軸にもあって、ある意味で継承していかなければという気持ちがあります。何となく柔らかくてアンニュイなだけではなく、実はもっと強いイメージがあります。粒がそろうことで初めて連帯感が生まれるような。そういうところから、わたしもフランス物をだんだん弾くようになりました。

後半にヒナステラとヤナーチェクを置く多彩な演目

工夫を凝らしたプログラムの選曲意図について語る三舩優子
工夫を凝らしたプログラムの選曲意図について語る三舩優子

——リサイタル後半はヤナーチェク「霧の中で」で始まります。この作品を選んだ理由は何でしょう。

三舩 プログラム後半は、民俗性を打ち出していくことで一つの旅に出て、世界観を共有する時間にしたいと思います。ヤナーチェクの曲では、日々起きる悲しいこと、辛いことを、どう音に載せているかを意識します。でも割とさりげなく書いている部分もあり、土臭い人間味を考えたい。あまり重くなりすぎないようにしたいと思います。

——ラストがヒナステラのピアノ・ソナタ第1番です。どんな魅力のある作品ですか?

三舩 明るく発散する曲想で、暗い短調の楽章にも光が差します。リズム感覚などに才能を感じさせ、うまく作っているな、と実感します。第2楽章には宇宙的な要素を感じます。変拍子が多くて民俗的で、ピアノ作品でありながらシンフォニックな面もあります。

——とてもバラエティ豊かなプログラミングになりましたね。今後はどんな作品に取り組んで行きたいですか?

三舩 リストは毎回リサイタルに入れてきましたが、今回はあえて1回お休みにしました。バッハ=ブゾーニのトランスクリプションには興味があります。コラール集は、いずれ弾けたらなと思っています。ショスタコーヴィチの<前奏曲とフーガ>も面白そうです。作曲家の人間としての側面に興味があり、日記のように書かれた作品をのぞいてみたい、と思います。またどこかで巡ってくるかもしれません。

——どれも楽しみですね。ますますのご活躍を期待しています。

公演データ

三舩 優子 ピアノ・リサイタル

10月28日(水)19:00 ハクジュホール

J・S・バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌニ短調BWV.1004
ブラームス:3つの間奏曲Op.117
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ヤナーチェク:「霧の中で」
ヒナステラ:ピアノ・ソナタ第1番Op.22

主催者ホームページ
三舩優子 ピアノ・リサイタル | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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