セイジ・オザワ 松本フェスティバルへ出演 務川慧悟、メシアンを語る

セイジ・オザワ 松本フェスティバルで2度目の「トゥランガリーラ交響曲」に挑む務川慧悟
セイジ・オザワ 松本フェスティバルで2度目の「トゥランガリーラ交響曲」に挑む務川慧悟
セイジ・オザワ 松本フェスティバルで2度目の「トゥランガリーラ交響曲」に挑む務川慧悟
セイジ・オザワ 松本フェスティバルで2度目の「トゥランガリーラ交響曲」に挑む務川慧悟

実力、人気とも若手屈指のピアニスト、務川慧悟が今年8月、長野県松本市で毎夏開かれる「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」に登場し、得意のフランス物を披露する。目玉はオリヴィエ・メシアンの大作「トゥランガリーラ交響曲」。大編成のオーケストラを従えて、電子楽器オンド・マルトノと共に華麗な独奏を繰り広げる。小澤征爾が日本初演した傑作を、小澤ゆかりのイベントで弾く意気込みと、作品の魅力などを聞いた。
(取材・構成=深瀬満)

フェスティバルへの出演はたいへん名誉なこと

——「トゥランガリーラ交響曲」でピアノを弾くのは、チョン・ミョンフン指揮の東京フィルと2024年6月に第1000回記念の定期演奏会で共演して以来、2回目だそうですね。セイジ・オザワ 松本フェスティバルから声が掛かった時は、どんなお気持ちでしたか?

務川 話を聞いて、ぶっとびました。大きなチャンスですし、たいへん名誉なことです。メシアン本人と親交のあったチョンさんとの共演はとても勉強になり、曲の偉大さが分かりました。その強烈な記憶は、今回の演奏でも自然と出てくると思います。

——今回はメシアンのほか、ラヴェルやドビュッシー、武満徹の室内楽作品を集めた2回の「ふれあいコンサート」にも出演されますね。

務川 フランス音楽を弾くとき、自分としては自然体で向かえます。さすがにメシアンは少し別ですが。苦労するというより、自然と弾きたいものが浮かんでくる感覚があるので、その意味では自信があります。

——指揮者の沖澤のどかさんとの共演は、いかがですか?

務川 これまでに2回、コンチェルトを共演する機会がありました。しかもサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番に、プーランクの「2台ピアノのための協奏曲」と、両方ともフランスものでした。キメ細かく音楽を作る方で、とてもやりやすかった。フランス音楽が好きだと言っておられましたし、ケミカルが合う。個人的な面識もあるので楽しみです。

インタビューに応じる務川慧悟
インタビューに応じる務川慧悟

「巨大な愛」を謳うトゥランガリーラ交響曲

——この交響曲の魅力は、どこにあるとお感じですか?

務川 アメリカからの委嘱で書かれたこともあって、テーマの「巨大な愛」が分かりやすく伝わる。だから一般受けしやすいのでは、と思います。メシアンがこの時点までに追求した作曲技法が、一通り入っていることもあります。統一した主題群を展開し、自分の技法を積み上げることで、人間が持つ最も強い感情=愛と喜びに至るのです。全曲を通して聴くと、その感覚に到達します。響きのイメージにはフランスの楽器などに特有な硬質でクリスタルな輝きがあり、その点でメシアンはラヴェルの影響下にあったのでは、と感じます。

——全体で10の楽章があるのも特徴ですね。

務川 第5楽章「星の血の喜び」と10番目の終曲が特に大事です。喜びが爆発します。最終的なメッセージは「死に至るほどの愛の喜び」で、それが表れる非常に人間的な楽章です。そして第6楽章「愛の眠りの園」は、夢のような愛を描く緩徐楽章です。「トゥランガリーラ」と名付けられた3つの楽章は数学的に書かれているのが面白い。

——実際の演奏では、どんなところに気をつけますか?

務川 普通のピアノ曲ならメロディックな要素を弾きますが、この曲には電子楽器のオンド・マルトノが入る。ヴィブラートが掛けられるので、メロディックな部分はそちらが受け持つ。そこでピアノは、打楽器に近い役割を果たすことになります。マルトノと対照的に、分厚い和音をくさびのように打ち込んでいく。これが技術的には非常に難しい。たくさんの和音を正しい音で、鮮烈に弾かねばなりません。メシアンが定めた法則に従って、反射的に和音が出せるようになっているのが理想です。

——それは大変ですね。メシアンの作品には妻のピアニスト、イヴォンヌ・ロリオが大きく関わり、多くの録音を残しています。お聴きになりましたか?

務川 もちろんです。この交響曲でもいちばん多く聴いています。メシアン固有の旋法が彼女の身体に入っています。複雑な曲を弾くことに苦労しているうちは、深く音楽的に弾くところまで行きません。その点、イヴォンヌの演奏は、メシアンの語法を完全に自分のものとしていて、技術的な問題の先まで行っています。

——チョンさんからは、メシアンの話を聞かれましたか?

務川 リハーサルの初めに、いきなりスピーチがありました。自分は偉大な音楽家を二人知っている、一人目は指揮者のシャルル・ミュンシュ、そして彼に勝るのがオリヴィエ・メシアンだ、と言うんです。人間として偉大だった、と。最初は数学的な手法で計算して作曲していたのが、最終的にはとても音楽的な作品を書いた、と讃え、作曲者直伝の解釈は凄く参考になりました。

——今後メシアンの作品には、どう取り組んでいきたいですか?

務川 作風を理解するため、まずは著書「わが作曲技法」を読むところから始めました。いったんルールが理解できると、独特の音階や旋法もそれを基にしていることが分かります。これまでは「トゥランガリーラ交響曲」以外、ほとんど弾いたことがなく、ずっとやりたいと思ってきました。「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」とか、2台ピアノによる「アーメンの幻影」を弾いてみたいですね。

——それは楽しみです。ありがとうございました。

公演データ

セイジ・オザワ 松本フェスティバル

8月16日(日)~9月2日(水) キッセイ文化ホール、松本市音楽文化ホール、他

【務川慧悟 出演コンサート】
オーケストラ コンサート Aプログラム

8月22日(土)15:00、23日(日)15:00 キッセイ文化ホール

指揮:沖澤のどか
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田節
サイトウ・キネン・オーケストラ
 メシアン:トゥランガリーラ交響曲

ふれあいコンサート I —ラヴェルと武満 徹―
8月25日(火)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)

ヴァイオリン:矢部達哉
チェロ:宮田 大
ピアノ:務川慧悟
 ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調 他

ふれあいコンサート II —ドビュッシーと武満 徹—
8月28日(金)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)

クラリネット:リカルド・モラレス
ピアノ:務川慧悟
 ドビュッシー:第1狂詩曲

チェロ:宮田大
ピアノ:務川慧悟
ドビュッシー:チェロ・ソナタ 他

音楽祭ウェブページセイジ・オザワ 松本フェスティバル

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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