スザンナ・マルッキ指揮 東京都交響楽団 第1047回定期演奏会Bシリーズ

スザンナ・マルッキが東京都交響楽団と初共演!結末に向けてサスペンスが高まる「青ひげ」は秀逸

ヘルシンキ・フィルやアンサンブル・アンテルコンタンポランなどのシェフを歴任、各地の一流オーケストラや歌劇場への客演も数多いフィンランドの指揮者、スザンナ・マルッキが東京都交響楽団と初共演した。

曲目は3人の作曲家による1900年前後の作品が選ばれ、ペローの童話「青ひげ」を大元とする、デュカスとバルトークの歌劇の音楽が頭尾におかれる。2008年のパリ国立オペラの来日公演の演目に、この2作品が含まれていたことを懐かしく思い出す。

フィンランドの指揮者、スザンナ・マルッキが東京都交響楽団と初共演 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta
フィンランドの指揮者、スザンナ・マルッキが東京都交響楽団と初共演 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta

前半は、デュカスの歌劇「アリアーヌと青ひげ」からの第3幕への前奏曲と、ドビュッシーの「夜想曲」から〝雲〟と〝祭〟。デュカス作品の曖昧模糊(もこ)とした、もやのような音楽には確実にドビュッシーの影響があるから、つながりは自然だ。しかしマルッキはムーディーに流すようなことをせず、冒頭からフォルムのしっかりした、シャープで明快な響きを引き出して、聴衆をひきつけた。

後半はバルトークの歌劇「青ひげ公の城」の演奏会形式上演。前口上は、会場アナウンスのように姿を見せずに、ジョン・レリエの声で流される。2年前のMETオーケストラ来日公演のときと同じ方式。音楽が始まると、上手と下手の両舞台袖から2人の歌手が入場し、指揮者の左右に立つ。

バルトークの歌劇「青ひげ公の城」の演奏会形式上演。2人の歌手は、指揮者の左右に立った 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta
バルトークの歌劇「青ひげ公の城」の演奏会形式上演。2人の歌手は、指揮者の左右に立った 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta

シルヴィア・ヴェレシュはハンガリーのメゾソプラノなので、歌詞の響きにも確固とした安定感がある。やや暗く、芯のはっきりした歌声で、ヒロインのユディット(敵将の寝首を掻いた旧約聖書の英雄的な女性と、同じ名前なのが暗示的だ)の決意と覚悟を表現する。
青ひげ役のジョン・レリエは、カナダ系アメリカ人のバス。深みのある声が美しく、自身の所業と心根が次第に明らかになっていくことにおびえ、自ら戦慄する青ひげの心の揺らぎを、声と表情で描き出した。

シルヴィア・ヴェレシュ(左)はやや暗く、芯のはっきりした歌声で、ヒロインのユディットの決意と覚悟を表現し、ジョン・レリエ(右)は青ひげの心の揺らぎを、声と表情で描き出した 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta
シルヴィア・ヴェレシュ(左)はやや暗く、芯のはっきりした歌声で、ヒロインのユディットの決意と覚悟を表現し、ジョン・レリエ(右)は青ひげの心の揺らぎを、声と表情で描き出した 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta

マルッキ指揮の都響は、暗くゴツゴツした怪奇性や色彩感を露骨に出すよりも、滑らかで明快に整った響きのうちに不気味さを匂わせながら、バルトークの凝ったオーケストレーションによる情景描写を音にしていく。第1の扉の拷問室から、緊迫感が急激に高まる。第5の扉が開くと、広大な国土を風ふき抜ける高所から見下ろすように、パイプオルガンと8人のバンダも舞台上方から加わる壮大な総奏となるが、ここも爽快感よりは、その背後の威圧と不安の気配を感じさせる。結末に向けてのサスペンスの高まりも素晴らしい。

パイプオルガンと8人のバンダ 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta
パイプオルガンと8人のバンダ 写真提供/東京都交響楽団 ©RikimaruHotta

今後も共演を重ねてほしいと願わせるコンサートだった。
(山崎浩太郎)

公演データ

東京都交響楽団 第1047回定期演奏会Bシリーズ 

7月17日(金)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:スザンナ・マルッキ
バス:ジョン・レリエ
メゾソプラノ:シルヴィア・ヴェレシュ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部 達哉

プログラム
デュカス:歌劇「アリアーヌと青ひげ」第3幕への前奏曲
ドビュッシー:「夜想曲」より〝雲〟〝祭〟
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」Sz.48(演奏会形式/日本語字幕付)

他日公演
7月18日(土)14:00東京芸術劇場 コンサートホール

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山崎 浩太郎

やまざき・こうたろう

演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。

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