リオ・クオクマン指揮 京都市交響楽団 第715回定期演奏会

情感あふれる豊かな響き――3つの楽曲世界を描き分けた「聴かせる」音楽

京都市交響楽団の第715回定期演奏会は、マカオ出身の若手音楽家、リオ・クオクマンを指揮者に迎えて行われた。2016年のラ・フォル・ジュルネTOKYOで日本デビュー。以来、年に数度来日し、さまざまなオーケストラと共演を重ねてきたリオは、近年活躍がめざましく、アジアだけでなく世界的にも評価が高い。京都市交響楽団とは、これまでにもたびたび共演してきただけに、同楽団の持ち味の1つである、情感あふれる豊かな響きを存分に引き出し、印象づける内容となった。

京都市交響楽団と共演を重ねてきたリオ・クオクマンが指揮台に立った ©京都市交響楽団
京都市交響楽団と共演を重ねてきたリオ・クオクマンが指揮台に立った ©京都市交響楽団

演奏曲目も、たとえば1曲目のメンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」と、2曲目のモーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第4番」は、ともに天才音楽家の19歳の作品という共通点が、また3曲目のエルガーの変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)は、第13変奏で1曲目の「静かな海と楽しい航海」の第2主題が登場するなど微妙に関連し合い、プログラムとしてのまとまりも感じられた。人を圧倒するような派手さはないが、各作品の楽曲世界や作曲年代を的確に捉え、描き分けたリオの采配により、終始「聴かせる」音楽になっていた。

1曲目のメンデルスゾーンは、弦の響きが生きた流麗な演奏。リオの音楽づくりは、入念に準備をしながらも、それを聴く側に感じさせない自然さが魅力。奇をてらったところもまったくなく、良い意味で癖がない。

メンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」は、弦の響きが生きた流麗な演奏 ©京都市交響楽団
メンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」は、弦の響きが生きた流麗な演奏 ©京都市交響楽団

続くモーツァルトでは、神尾真由子が登場。チャイコフスキー国際コンクールの優勝から19年。演奏家として着実にキャリアを積み、近年は指導者としても活躍している神尾は、過去にモーツァルトの室内楽の演奏会を行った経験がある。だからだろうか、この日は冒頭のトゥッティから自身も演奏に加わり、楽曲世界に溶け込んだところでソロ演奏に入った。全体的にエネルギッシュで自由闊達(かったつ)。随所にハッとさせられる刺激的で楽しいモーツァルトだったが、ときに闊達さが先走り、音に心が十分乗っていないように感じられる箇所があったのは惜しまれる。もっとも、カデンツァは圧巻で、各楽章とも自身の持つ表現の幅を駆使し、音と一体となって自在に歌い上げていた。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番でソリストを務めた神尾真由子。圧巻のカデンツァを披露した ©京都市交響楽団
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番でソリストを務めた神尾真由子。圧巻のカデンツァを披露した ©京都市交響楽団

2部のエニグマは、木管や金管が効いた色彩感あふれる演奏で、弦の重なりも含め、厚みのあるハーモニーを堪能させてくれた。各変奏の描き分けも見事。全体として、けっして声高に叫ばなくても、伝えたいことが音楽として叙情豊かに伝わってくる、そんな演奏になっていた。
(堀内みさ)

エルガーの変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)では、厚みのあるハーモニーを堪能させてくれた ©京都市交響楽団
エルガーの変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)では、厚みのあるハーモニーを堪能させてくれた ©京都市交響楽団

公演データ

京都市交響楽団 第715回定期演奏会

9月18日(金)19:00京都コンサートホール 大ホール

指揮:リオ・クオクマン
ヴァイオリン:神尾 真由子
管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:会田 莉凡

プログラム
メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」Op.27
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第4番 ニ長調 K.218
エルガー:変奏曲「謎」(エニグマ変奏曲)Op.36

ソリスト・アンコール
パガニーニ:24のカプリース Op.1,MS25より第5番 イ短調

他日公演
9月19日(土)14:30京都コンサートホール 大ホール

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堀内 みさ

ほりうち・みさ

音楽ライター。文筆家。20代から30代にかけて、毎年1カ月ほどバックパッカーでヨーロッパを旅し、主に立ち見でコンサートを聴きまくっているうちに、気がつけば物書きに。モットーはフィールドワークで、作曲家ゆかりの地を巡る連載なども担当。著書に「ショパン紀行」(東京書籍)「ブラームス『音楽の森へ』」(世界文化社)など。日本の音楽や伝統文化についての執筆を行う一面も。

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