大作「7つの封印の書」で創立100年の幕開けに相応しい充実の演奏を披露したルイージ&N響
NHK交響楽団の創立100年を記念したシーズンの幕開けとなる9月定期公演Aプログラム、フランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」を聴いた。指揮は首席指揮者のファビオ・ルイージ。
シュミットは19世紀末から20世紀初頭にかけてオーストリアを中心に活躍した作曲家でチェリスト。「7つの封印の書」はその最晩年に書かれたオラトリオで新約聖書の最終章「ヨハネの黙示録」のドイツ語訳をテキストに3管編成のフル・オーケストラ、6人の独唱歌手、合唱、パイプオルガンを要し、演奏時間約110分の大作。日本で演奏されるのは今回が6度目。N響では2000回定期(2023年12月)の候補曲3曲のうちの1曲として聴衆の投票にかけられたが、この時はマーラーの交響曲第8番が選ばれ演奏には至らなかった。ルイージがこの作品に強い思い入れがあることは彼がタイトルを持つデンマーク国立交響楽団、ダラス交響楽団でも取り上げていることでも分かる。公演取材にあたり、両楽団のYouTube動画を複数回視聴して臨んだが、この日のN響との演奏は洗練の度合いを一層増したように感じた。
冒頭、ホルンによる「C(ド)-D(レ)-G(ソ)-F(ファ)」という「封印の書の動機」ともいわれる音型が木管楽器と弦楽器に受け継がれていくところから響きは透明で美しい。この音型は形を変えて随所に登場するが、ルイージはこれらを殊更強調することをせずに全曲にわたって響きの均衡を重視した音作りに徹していたように感じた。
シュミットはシェーンベルクと同世代の作曲家だが、この作品では調性が明確な部分と不安定になる箇所を使い分け、教会旋法を想起させるコーラスのアカペラやパイプオルガンのソロといった多彩な表現手段が混載されている。ルイージはこれらに統一感を持たせて全体として美しく聴かせた。
受難曲の福音史家にあたる〝回し〟の役割を担うヨハネはドイツ出身のテノール、ミヒャエル・ラウレンツ。ベルリン交響楽団の首席トランペット奏者から歌手に転じた異色の経歴の持ち主で、少し細みながら透明感のある声で全曲の5割以上にもわたる長丁場のパートをスタミナを切らすことなく粛々と歌い上げた。神の声はドイツのバス、ダーヴィト・シュテフェンス。オルガンの演奏台から深みのある朗々とした美声を響かせた。日本人歌手4人もルイージの意図に沿った歌唱。新国立劇場合唱団は広いダイナミックレンジによる変化に富んだ表現で公演の成功を支えた。
ルイージは綿密な計算のもと音量をコントロールしており、第2部終盤、神の声に続いて合唱が「神の名をほめ讃えよ!ハレルヤ‼」を連呼するまで最強音を封印。ここから先はエネルギーを一気に解放し、最後はオルガンの強奏に導かれるように「C-D-G-F」を高らかに反復して輝かしく全曲を締めくくった。創立100年の開幕に相応しい充実の演奏にオケ・合唱退場後も盛大な喝采は鳴りやまず、ルイージはステージに再登場し歓呼に応えていた。なお、会場には19日と21日に東京交響楽団を指揮して奇しくも同時期にこの曲を演奏するロレンツォ・ヴィオッティの姿もあった。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2069回定期公演Aプログラム
9月12日(土)18:00 NHKホール
指揮:ファビオ・ルイージ
ヨハネ(テノール):ミヒャエル・ラウレンツ
神の声(バス):ダーヴィト・シュテフェンス
ソプラノ:迫田 美帆
メゾ・ソプラノ:藤井 麻美
テノール:伊藤 達人
バス:加藤 宏隆
パイプオルガン:新山 恵理
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平 恭平
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
N響100年特別企画
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」(日本語字幕付き)
他日公演
9月13日(日)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










