ヨーヨー・マ サントリーホール40周年スペシャルコンサート

共生と寛容――ヨーヨー・マの人間的な大きさや芸術家としての幅の広さを実感した公演

ヨーヨー・マがサントリーホール40周年スペシャルコンサートに登場。今回は、若手演奏家たちや先住民族の音楽を受け継ぐ音楽家たちとの共演でプログラムが組まれた。

ヨーヨー・マが、サントリーホール40周年スペシャルコンサートに登場
ヨーヨー・マが、サントリーホール40周年スペシャルコンサートに登場

まずは、ヨーヨー・マ、若尾圭良(ヴァイオリン)、ユン・ジャニス・ルー(ピアノ)が入場し、続いて、アイヌの血を引き、トンコリ(樺太アイヌの弦楽器)を奏でるOKIとアイヌ伝統音楽に取り組むヴォーカルグループのMAREWREW(マレウレウ)が登場して彼らが演奏する「Topattumi」でコンサートは始まった(ヨーヨー・マもいつしか軽く音を出している)。そのトンコリの響きは、どこかショスタコーヴィチと響き合い、そのまま、若尾、マ、ルーのトリオがショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番を弾き始める。

若尾圭良(ヴァイオリン)、ヨーヨー・マ(チェロ)、ユン・ジャニス・ルー(ピアノ)のトリオによるショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番
若尾圭良(ヴァイオリン)、ヨーヨー・マ(チェロ)、ユン・ジャニス・ルー(ピアノ)のトリオによるショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番

若尾は2006年ボストン生まれで、2024年のボストン交響楽団シーズン開幕ガラに抜擢された気鋭のヴァイオリニスト。ルーは、台湾出身で、ニューイングランド音楽院の博士課程に在籍するピアニスト。ショスタコーヴィチの第2番では、マが、フラジオレットを最弱音で始める。そして、ヴァイオリンとチェロが密度の高い音楽を奏でる。若尾は非常に洗練された音、マは、温かみのある音で、アンサンブルを支えた。ルーは大ホールに合った大きめの音。

続いて、マとルーによって、メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」より第8楽章「イエスの不滅性への賛歌」が演奏された。マのヴィブラートは人間的で、賛歌としての高揚は、音量よりも、音色や音質によって示された。ただ、ルーのピアノにはもう一工夫ほしかった。個人的には、2001年の同ホールでのマと内田光子との同曲の演奏を思い出した。

演奏会後半は、カナダ東部の先住民族(ウォラストクイク族)の一人であり、独自の音楽に取り組むジェレミー・ダッチャーの企画・監修によって、「Wisdom for a Broken World」というステージが繰り広げられた。彼は母語であるウォラストケイ語で曲を書く。ダッチャーの歌う水や大地や自然は、近年のヨーヨー・マのソーシャル・メッセージである「No water,no life.」や「We are water」と共鳴する。この日はとりわけ、水や舟に関する歌が多く歌われた。

後半は、ジェレミー・ダッチャーの企画・監修によるステージ「Wisdom for a Broken World」
後半は、ジェレミー・ダッチャーの企画・監修によるステージ「Wisdom for a Broken World」

まず、マの無伴奏ソロによる、ドヴォルザークの「インディアン・ラメント」(「ソナチネ」のラルゲット)で始まる。そして、ダッチャーが登場し、先住民伝承の「Honour Song」。ダッチャーの歌、マのチェロで二人舞台。マの重音を多用した伴奏が聴きものだった。次に、100年以上前の民謡歌唱の録音との共演で「Oqiton」。ダッチャーがピアノ弾き語り、マはピッツィカートで伴奏(間奏ではたっぷり歌う)。「tahcuwi Anelsultipon」は、ダッチャーの抒情的でノスタルジックな歌。そのノスタルジーが、ドヴォルザークの「家路」(「新世界交響曲」第2楽章)につながる。最初、マが重音を多用し、一人で旋律と伴奏を弾く妙技を披露。そしてダッチャーの「ゴーイン・ホーム」というヴォーカルが加わる。

そのあと、OKIとマレウレウの4人が登場し、アイヌの伝統音楽やOKIの音楽(「Muy so kanene」と「Hirikaho」)を披露。OKIのトンコリの演奏も。そして、ダッチャーがOKIの家を訪ねたことでできたという「Healing chant」を全員で演奏。続いて、マレウレウを中心にアイヌの伝統歌を2曲(「シャチの歌」と「Ipa」)。最後に全員で、カナダ東部の先住民伝承の「蛇の薬の歌」。アンコールにはダッチャーの「Woliwon(ありがとう)」が歌われた。

若手演奏家や先住民族の音楽を受け継ぐ音楽家との共演を通して、共生と寛容を求める今のヨーヨー・マの人間的な大きさや芸術家としての幅の広さを実感したステージであった。

(山田治生)

若手演奏家や先住民族の音楽を受け継ぐ音楽家との共演を通して、ヨーヨー・マの芸術家としての幅の広さを感じた

公演データ

ヨーヨー・マ サントリーホール40周年スペシャルコンサート

10月25日(日) 19:00サントリーホール 大ホール

チェロ:ヨーヨー・マ
ヴァイオリン:若尾圭良
ピアノ:ユン・ジャニス・ルー

[特別ゲスト]
ヴォーカル、パーカッション、ピアノ:ジェレミー・ダッチャー
ヴォーカル、トンコリ:OKI
ヴォーカル:MAREWREW(マレウレウ)

プログラム
「Topattumi」(夜襲/不意打ちの意)
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲 第2番 ホ短調 Op.67
メシアン:「世の終わりのための四重奏曲」より 第8楽章 〝イエスの不滅性への賛歌〟
[Wisdom for a Broken World(企画・監修:ジェレミー・ダッチャー)]
ドヴォルザーク:「インディアン・ラメント」
Honour Song
Oqiton
Tahcuwi Anelsultipon
ドヴォルザーク:「家路」
Muy so kanene
Hirikaho
Healing chant
シャチの歌
Ipa
蛇の薬の歌

アンコール
ジェレミー・ダッチャー:Woliwon

他日公演
10月27日(火)、28日(水) 19:00サントリーホール 大ホール

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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