エッシェンバッハの意を体して活発なアンサンブルで熱いベートーヴェンを聴かせたN響
クリストフ・エッシェンバッハが客演したNHK交響楽団10月定期公演Cプログラム初日を聴いた。今月、創立100年を迎えたN響では9月から毎月、C定期でベートーヴェンの交響曲を順次取り上げて、12月の第9公演でツィクルスを完成させるという特別企画を実施中。その2回目となるこの日は交響曲第8、5番が演奏された。
エッシェンバッハは左半身が自在に動かせない様子で、オーケストラ・メンバーとともに介添えの男性に支えられ、杖をついて登場し、いすに座っての指揮となった。
1曲目は交響曲に先立って「エグモント」序曲が演奏された。ほぼ右手だけの指揮で拍の打点が不明瞭な箇所もあったが、そこは精緻な合奏能力を誇るN響だけあって、川崎洋介コンマスの中腰になっての熱いリードのもと、アンサンブルに乱れはなく、1曲目から燃焼度は高かった。
この日の弦楽器の編成は14型、ヴァイオリンは対向配置。管楽器は譜面の指定通りの数でアシスタント奏者の増強はなし。譜面はブライトコプフ版。ピリオド奏法に寄せた演奏ではないものの、20世紀の巨匠指揮者のような重厚な音作りではなく、余計な装飾を排してアンサンブルの妙味を際立たせるスタイルであった。
2曲目は交響曲第8番。演奏の方向性は「エグモント」序曲と同じであったが、テンポは全体にやや遅め。エッシェンバッハが自在に動けない分、彼の意図を実際の音にしようと各楽員がそれぞれの音を聴き合いながら引き締まったアンサンブルを繰り広げた。第3楽章のトリオのホルン(1番は客演奏者で千葉交響楽団の大森啓史)も安定しており、クラリネット(松本健司首席)と絡みながら、作曲家が意図したであろう牧歌的な雰囲気を上手く醸し出していた。
メインは第5番「運命」。こうした名曲中の名曲が普段のN響や在京オケの定期で取り上げられる機会は少なく、エッシェンバッハのような世界的名匠の指揮で聴けるのは貴重な機会でもある。第1楽章冒頭の第1主題から気迫のこもった力強さが感じられ、音楽に引き込まれていく。268小節目のオーボエ(客演奏者で新日本フィルの神農広樹首席)のカデンツァもよく通る美音を朗々と響かせた。全体としては外連味(けれんみ)のない端正な演奏。前2曲と同じく川崎コンマスの熱血リードのもと、各パートがお互いを聴き合いながら室内楽のようなアンサンブルを展開。要所をティンパニ(久保昌一首席)が的確に締めていた。第4楽章の盛り上がりも十分で、終演後は客席から大喝采が沸き起こったが、エッシェンバッハの体調を考慮してか、必要以上に拍手を続けなかったこの日の聴衆の〝思いやり〟にも感心させられた。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2073回 定期公演 Cプログラム
N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏2
10月23日(金)19:00 NHKホール
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:川崎洋介
プログラム
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調Op.93
ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」
他日公演
10月24日(土)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










