岩城宏之と山本直純の友情とOEK&石川県立音楽堂建設の物語に読み替えた「森のうた」
もう四半世紀が過ぎたのか、と思う。2001年9月16日。私はJR金沢駅前に完成したオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の新しい本拠(フランチャイズ)石川県立音楽堂のオープン記念公演を聴いていた。OEK音楽監督(現在は創設音楽監督)岩城宏之(1932―2006)が池辺晋一郎に作曲を委嘱、「ウルトラマン」の脚本家で石川県出身の佐々木守がテキストを書き下ろした長大なオラトリオ「呼びかわす山河:前田綱紀の時代」が杮落しの演目だった。岩城は5年後に亡くなったので今年(2026年)はホール開館25年、岩城没後20年の節目が重なった。
指揮の山田和樹は「若いうちに歌の呼吸を身につけた方がいい」と岩城に説き伏せられて東京混声合唱団(東混)の指揮を引き受け、現在は理事長・音楽監督の要職にある。奇しくも2026年は、東混も発足70周年に当たっている。
東京藝術大学音楽学部でも岩城の後輩に当たる山田は、岩城が盟友(悪友?)山本直純(1932―2002)との破茶滅茶な学生時代を描いた著作「森のうた〜山本直純との藝大青春記」(1987年、朝日新聞社)を拠り所に、石川県立音楽堂芸術監督の野村萬斎とともに、奇想天外なプログラムを25周年記念スペシャルコンサートのために編んだ。前半は天才作曲家ナオズミの名作(迷作?)、「ベートーヴェン/山本直純“変”曲:交響曲第45番〝宿命〟」。山本は誕生日がベートーヴェンと同じ12月16日だったことに宿命を感じていたという。45は9つの交響曲の数字の合算だが、パロディーの接続曲にはモーツァルト、ブラームスや日本のメロディ、1964年東京オリンピックのファンファーレまで現れ、「なんでもあり」のカオスだ。
野村が口上を述べ、岩城の生前のビデオが流れた後、演奏が始まった。途中チャイムが鳴って「シロネコ急便」が届くと、中から山本に扮した野村、岩城に扮した山田が〝幽霊〟として現れる。岩城の指揮中、山本が岩城とOEKの歴史を語る。ソーラン節の旋律が客席の手拍子で盛り上がると、石川県の山野之義知事が「50代の手習い」のサックスを吹きながら現れ、2人を相手に音楽の素晴らしさを語り、客席に向かって「大切な文化のエンジン」である音楽堂、OEKを今後も守り育てる決意を表明した。指揮をしたくなった山本が岩城をピストルで撃ち、サイレンとともに岩城が救急搬送されると、地元の民俗芸能である御陣乗太鼓の一座が現れ、存命中の山田に戻った?指揮者との壮大なコラボレーションを盛り上げ、着地に至った。ここまでで開演から1時間。
後半は今年が生誕120年に当たるショスタコーヴィチの問題作「オラトリオ〝森のうた〟」。日本での通常表記は「森の歌」だが、山田とOEKは岩城の名著に敬意を表し、平仮名の「うた」とした。前衛的作風を旧ソ連共産党中央委員会から問題視(ジダーノフ批判)され、窮地に立ったショスタコーヴィチはスターリンの数少ない善政とされた植林計画を題材に「超わかりやすい」オラトリオを1949年に書き「スターリン賞第1席」を受賞、たった1年で名誉を回復した。岩城と山本が学内で勝手に組織した「学響」と芸大の旧奏楽堂で「森の歌」を演奏したのは1953年(昭和28年)。指揮は山本で、岩城は打楽器だ。エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮による世界初演のわずか4年後、2人がただのアンファン・テリブル(恐るべき子ども)やアプレゲール(無軌道な戦後派)ではなく、時代の寵児として羽ばたく未来をはっきりと示した大イベントだった。
今回は岩城役の野村が著書「森のうた」の要所要所を朗読しつつ演奏が進行した。山田は変則10型(第1ヴァイオリン10人)のOEKをエネルギッシュに鳴らし、野村ともどもショスタコーヴィチの「森づくり」を岩城の「オーケストラと音楽堂」の建設に読み替えたシアターピースとして、楽曲の〝あざとさ〟を中和した。2人の独唱も合唱も児童合唱も熱演だったが、いかんせんロシア音楽の抑揚と日本語訳の相性が良いとは言えず、「字幕が欲しい」と何度か思った。それでもフィナーレの「栄光」では金管バンダもパイプオルガン前にずらりと並び、壮大なクライマックスを築いた。最後は岩城と山本が生涯を捧げた音楽の力だけが残り、諸々の小ワザを吹き飛ばしたともいえる。
全員参加のアンコールは山本が1971年、NHKの正月特番のために作曲した名曲「歌えバンバン」(阪田寛夫作詞)。この時点で客席の熱気は最高潮に達し、山田は手を上げ叩き歌いながら客席を回り、さらに盛り上げた。この曲の日本語はすべて聴き取れて、自国語オリジナル曲をつくる大切さにも思いが至った。
(池田卓夫)
公演データ
石川県立音楽堂開館25周年記念スペシャルコンサート「森のうた」
10月22日(木)19:00石川県立音楽堂コンサートホール
指揮:山田和樹
演出・語り:野村萬斎
テノール:宮里直樹
バス:加藤宏隆
合唱:東京混声合唱団、OEK合唱団
児童合唱:「森のうた」児童合唱団
バンダ:「森のうた」バンダ隊
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢
コンサートマスター:松井 直
[ゲスト]
山野之義(石川県知事)、御陣乗太鼓、山本えみ(俳優)
プログラム
ベートーヴェン/山本直純“変”曲:交響曲第45番「宿命」
ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森のうた」Op.81(日本語版)
アンコール
山本直純:「歌えバンバン」
いけだ・たくお
2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。










