従来のイメージを覆すミンコフスキと都響による斬新なブルックナー8番
フランスの名匠、マルク・ミンコフスキが客演した東京都交響楽団の定期。演目はブルックナーの交響曲第8番。1887年に完成された初稿を基に出版されたノヴァーク版1稿を採用しての演奏であった。古楽に精通するミンコフスキらしい選択であったが、驚きはその演奏内容。この作品に対する既存のイメージがことごとく打ち砕かれたように感じさせるくらいの大胆なアプローチで、そこから聴き慣れた同曲とはまったく〝別の顔〟が浮かび上がってきた。
この日は開演時からいつもと違っていた。オケのメンバーがステージに登場するのと一緒にミンコフスキも姿を現し、チューニングが終わるのを待っていた。
斬新さの第一は快速テンポ。この日、演奏に要した時間は70~71分。2024年9月にファビオ・ルイージがN響定期で、初稿を採用して同曲を演奏したが、この時は約84分であった。ほぼ同じ楽譜を使って約14分の差、ミンコフスキのテンポがいかに速かったかが分かる。
続いて、響きの構築の仕方。ブルックナーといえば石造りの巨大なカテドラルに鳴り響くパイプオルガンのようなサウンドをイメージされることが多いが、ミンコフスキは大きな響きの塊を作るのではなく、全曲、あるいは各楽章に通底するいくつかの音型を厚い和声に埋もれさせることなく歯切れよく演奏させることで浮かび上がらせる。そこから複数の旋律が絡み合う対位法の構造に強い光が当てられる。
それは第1楽章冒頭から明確な意図をもって実践されていた。ヴァイオリンのトレモロに乗ってヴィオラ、チェロ、コントラバスが演奏する第1主題。通常であれば、音を繋げて重苦しい雰囲気で弾かれるのだが(一部譜面ではスラーが付いている)、スタカートとまではいかないものの、ひとつひとつの音を区切ってリズミカルに聴かせる。原始霧とも呼ばれるトレモロの和声を抑えて第1主題をクッキリ浮かび上がらせることでその後、この主題が変容しながら何度も姿を現すことを示すための〝伏線〟となっているように感じた。
もうひとつ紹介しておこう。第4楽章の第3主題。ティンパニに導かれてオケ全体でマーチ風の力強い音楽を奏でる箇所。フォルティシモによるトゥッティがひとしきり収まった後もF(ファ)とB(シ♭)を基軸とした音型が、次の主旋律の裏側でヴィオラなどに引き継がれて鳴り続けていることが強調されていた。これまで気付くことのなかったこの作品の構造を全曲にわたって驚異的ともいえる透明感をもって明らかにしたアプローチ。ブルックナーの交響曲が演奏によってこれほど違って聴こえるのかと驚かされるほどの斬新さであった。
(宮嶋 極)
公演データ
東京都交響楽団 第1054回 定期演奏会Bシリーズ
10月21日(水)19:00 サントリーホール 大ホール
指揮:マルク・ミンコフスキ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:山本 友重
プログラム
ブルックナー:交響曲第8番ハ短調WAB 108(1887年第1稿/ノヴァーク版)
他日公演
10月22日(木)19:00 サントリーホール 大ホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










