PMF2023から~新旧ウィーン・フィルメンバーも加わり華やかに

PMFオーケストラ演奏会より、ウルバンスキ(指揮)、リシエツキ(ピアノ)ら
PMFオーケストラ演奏会より、ウルバンスキ(指揮)、リシエツキ(ピアノ)ら

20世紀後半を代表する指揮者のひとりで作曲家としても数多くの名曲を残したレナード・バーンスタインの提唱によって創設された国際教育音楽祭パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)が7月12日から8月1日まで札幌をメイン会場に開催された。7月15日に行われたクシシュトフ・ウルバンスキ指揮、PMFオーケストラの演奏会と翌16日のPMFウィーンによる室内楽公演について報告する。会場はいずれも札幌コンサートホールKitara。(宮嶋 極)

【PMFオーケストラ演奏会】

アカデミー生と呼ばれるオーディションで選抜された若い音楽家は74人。日本や米国、中国、韓国など環太平洋地域を中心にヨーロッパなど世界中から腕利きの演奏家が集まりPMFオケが編成された。後援スポンサーからの補助金減少などで、オケの人数も弦楽器が14型(演奏に加わる教授陣も含む)とやや小ぶりになったが、今年のオケはなかなかうまい。それは冒頭の「キャンディード」序曲から明らかであった。サウンド全体のキメが細かく均質性に優れていたからだ。いろいろな国から集まったアカデミー生たちの演奏スタイルは当然それぞれ異なるのだが、それをひとつにまとめ上げるウルバンスキの手腕もなかなかなものである。伸びやかでエネルギッシュな「キャンディード」は聴衆の期待感をさらに高める快演であった。

 

それに触発されたかのようにグリーグのピアノ協奏曲ではヤン・リシエツキが繊細さとダイナミックさを兼ね備えた圧巻の演奏を繰り広げた。変化に富んだリシエツキのピアノにウルバンスキは丁寧に拍子を取ってオケをリードし、ソロを手堅く支えていたのが印象に残った。盛大な拍手にリシエツキはショパンのノクターン第20番をアンコール。グリーグの壮麗さからは一転して深く沈殿していくかのような解釈で、「遺作」に相応しい精神性を感じさせる演奏が光った。

後半のショスタコーヴィチの交響曲第5番ではウィーン・フィルの現役、OBメンバーがオーケストラに加わった
後半のショスタコーヴィチの交響曲第5番ではウィーン・フィルの現役、OBメンバーがオーケストラに加わった

メインのショスタコーヴィチ第5番は講師陣のウィーン・フィル、ベルリン・フィルの現役、OBメンバーが各パートのトップなどを務めての演奏。ちなみにコンマスがライナー・キュッヒル(元ウィーン・フィル コンマス)、第1ヴァイオリン第2ブルトにダニエル・フロシャウアー(ウィーン・フィル楽団長)、ヴィオラのトップにハインツ・コル(元ウィーン・フィル首席)、フルートのトップにアンドレアス・ブラウ(元ベルリン・フィル首席)、ホルンの低音パートにサラ・ウィリス(ベルリン・フィル)らの手だれたちが要所を固めた陣容。ウルバンスキも前半の拍子をキッチリと示す〝学生仕様〟の指揮から、普段プロ・オケを指揮する時と同じく流れるようなスタイルに戻り、遅めのテンポ設定で音楽の深部に強い光を当てるかのような、彼ならではの独自性を前面に打ち出した演奏を聴かせた。第4楽章のコーダもかなり遅いテンポで、革命の勝利への賛美とも社会主義体制に対するアイロニーのどちらにも重きを置かない独特の重苦しさを感じさせる終結。これには今も終わりが見えないロシアによるウクライナへの軍事侵攻の事を想起してしまった。そういえば、ウルバンスキはロシアの蛮行の次の標的になるのではないかと危機感を強めているポーランドの出身。ロシアに対する批判が今回の解釈に込められていた、というのはいささか考えすぎであろうか。

【PMFウィーン演奏会】

翌日は弦楽器各パートの講師を務めた前述のキュッヒルをはじめとするウィーン・フィルの現役・OBメンバー5人による室内楽公演。ベートーヴェン後期の名作のひとつである弦楽四重奏曲第12番ほかのプログラム。約50年にわたって、いろいろな形態でキュッヒルのヴァイオリンを聴いてきた身としては、加齢からくる技術的な衰えは正直、否めなかったが、それにも増してウィーンの芳香が漂う滋味深い演奏は年輪を重ねた名ヴァイオリニストであり、名コンマスであった彼ならではの味わいがあった。

左から、ライナー・キュッヒル、ダニエル・フロシャウアー、ハインツ・コル、エディソン・パシュコ(手前)、ミヒャエル・ブラーデラー
左から、ライナー・キュッヒル、ダニエル・フロシャウアー、ハインツ・コル、エディソン・パシュコ(手前)、ミヒャエル・ブラーデラー

公演データ

【パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)2023】

〇 PMFオーケストラ演奏会

7月15日(土)17:00 札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ピアノ:ヤン・リシエツキ
管弦楽:PMFオーケストラ、PMFヨーロッパ

バーンスタイン:「キャンディード」序曲
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調Op.47

 

〇 PMFウィーン演奏会

7月16日(日)15:00 札幌コンサートホールKitara大ホール

ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、ダニエル・フロシャウアー
ヴィオラ:ハインツ・コル
チェロ:エディソン・パシュコ
コントラバス:ミヒャエル・ブラーデラー

ハイドン:弦楽四重奏曲Op.74 第3番ト短調「騎士」
オンスロウ:弦楽五重奏曲第30番ホ短調Op.74
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番変ホ長調Op.127

宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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