コロナ禍前のにぎわい戻る オペラやリサイタル、百花繚乱 ……23年2月

東フィルのサントリー定期では名匠プレトニョフと2022年ヴァン・クライヴァーン・コンクールの若き覇者イム・ユンチャンが協演 撮影=上野隆文/提供=東京フィル
東フィルのサントリー定期では名匠プレトニョフと2022年ヴァン・クライヴァーン・コンクールの若き覇者イム・ユンチャンが協演 撮影=上野隆文/提供=東京フィル

 脱コロナに向けて社会が大きく動き出した中、音楽界も海外アーティストの来日公演がコロナ禍前の状況に戻りつつあり、さまざまな公演が各所で開催されている。そこで今月は選者の皆さんに2月に開催されたステージからピカイチを、4月に予定されている公演からイチオシを紹介していただきます。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京フィルハーモニー交響楽団 第980回サントリー定期シリーズ〉

2月24日(金)サントリーホール

ミハイル・プレトニョフ(指揮)/イム・ユンチャン(ピアノ)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/チャイコフスキー:マンフレッド交響曲

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〈日本オペラ協会 日本オペラシリーズ No.84〉

2月18日(土)Bunkamuraオーチャードホール

田中祐子(指揮)/岩田達宗(演出)/東京フィルハーモニー交響楽団/岡昭宏(光源氏)/佐藤美枝子(六条御息所)/向野由美子(藤壺)他 ※ダブルキャスト、18日所見

三木稔:オペラ「源氏物語」

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~個性と意欲、あふれんばかり~

 10代のイム・ユンチャンの大胆で個性的なソロ、プレトニョフのあおり立てる指揮の面白さが抜群の「皇帝」。それにプレトニョフの指揮の色彩感が映えた「マンフレッド」の快演。一方、コリン・グレアム台本によるオペラ「源氏物語」は、日本語版での本邦全曲初演。長大で少し平板な流れというきらいはあるものの、岩田達宗の演出の巧みさ、大塚満の衣装の美しさ、演奏の良さなどとともに見事な力作となった。意欲的な試みをたたえたい。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ R・シュトラウス「平和の日」日本初演〉

4月8日(土)、9日(日)Bunkamuraオーチャードホール(セミ・ステージ形式)

準・メルクル(指揮)/東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団/清水勇磨・小森輝彦(司令官)/中村真紀・渡邊仁美(妻マリア)他 ※ダブルキャスト

東京二期会による「平和の日」日本初演でタクトを執る準・メルクル (C)Tey Tat Keng
東京二期会による「平和の日」日本初演でタクトを執る準・メルクル (C)Tey Tat Keng

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〈4オケのシンフォニー~ブラームス〉

4月15日(土)フェスティバルホール(大阪)

交響曲第3番:山下一史(指揮)/大阪交響楽団▽交響曲第4番:飯森範親(指揮)/日本センチュリー交響楽団▽交響曲第2番:飯守泰次郎(指揮)/関西フィルハーモニー管弦楽団▽交響曲第1番:尾高忠明(指揮)/大阪フィルハーモニー交響楽団

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~意義ある R・シュトラウス「平和の日」日本初演~

 R・シュトラウス後期の歌劇「平和の日」が、セミ・ステージ形式ながらも日本初演されるのは、今日大いに意義あることだろう。長い戦争が一転して平和条約により終結、「われわれはなぜ戦い続けて来たのだろう、今こそ永遠の平和を!」と、合唱と管弦楽が高まる幕切れは熱狂的だ。準・メルクルの指揮も期待充分である。「4オケ」は、大阪の4つのオーケストラが一堂に会して競演する恒例の大イベント。今年は生誕190年のブラームス。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈NHK交響楽団 第1978回定期公演C〉

2月10日(金)NHKホール

ヤクブ・フルシャ(指揮)
バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」から〝シンフォニック・ダンス〟/ラフマニノフ:交響的舞曲

N響へは19年4月の定期公演以来2度目の客演となったヤクブ・フルシャ 写真提供:NHK交響楽団
N響へは19年4月の定期公演以来2度目の客演となったヤクブ・フルシャ 写真提供:NHK交響楽団

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〈東京芸術劇場シアターオペラvol.16マスカーニ「田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)/レオンカヴァッロ「道化師」〉

2月5日(日)東京芸術劇場

アッシャー・フィッシュ(指揮)/上田久美子(演出)/読売日本交響楽団/アントネッロ・パロンビ(トゥリッドゥ/カニオ) 他

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~濃密かつ切れ味鋭いフルシャ&N響コンビの快演~

 フルシャ&N響の「シンフォニック・ダンス」プロは、さえたリズムと的確な造型が相まった快演。特に「ウエスト・サイド~」は各曲のつながりもスムーズで、中でも「クール・フーガ」から「ランブル」への移行がこれまでないほど自然になされたことに感心した。加えて同コンビは、ブラームス他のB定期も濃密で生気に富んだ好演だった。芸劇のダブルビルは、読響のサウンドと両演目の主役パロンビの歌唱に感嘆。演出も存外たのしめた。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 飯守泰次郎のブルックナー〉

4月7日(金)、24日(月)サントリーホール

飯守泰次郎(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番(7日)/ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(24日)

25年にわたり、信頼関係を築いてきた飯守と東京シティ・フィル (C)K.Miura
25年にわたり、信頼関係を築いてきた飯守と東京シティ・フィル (C)K.Miura

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〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ R・シュトラウス「平和の日」日本初演〉

4月8日(土)、9日(日)Bunkamuraオーチャードホール(セミ・ステージ形式)

準・メルクル(指揮)/東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団/清水勇磨・小森輝彦(司令官)/中村真紀・渡邊仁美(妻マリア)他 ※ダブルキャスト

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~聴き逃せない円熟の巨匠のブルックナー~

 今年83歳を迎える飯守泰次郎の集大成的なブルックナー2曲は必聴だろう。独墺音楽の泰斗の円熟の至芸はもちろんだが、この巨匠の音楽作りを最も理解している東京シティ・フィルへの期待も大。高関健のもとで充実著しく、しかも近年ブルックナーの交響曲の名演を複数残している楽団だけに、7年ぶりとなる飯守との同作曲家の交響曲演奏が注目される。二期会の「平和の日」は、このレア曲を生体験できる生涯唯一のチャンスかも。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京文化会館シャイニング・シリーズVol.12 北村朋幹ピアノ・リサイタル〉

2月25日(土)東京文化会館小ホール

シューマン:森の情景/ホリガー:エリス-3つの夜曲-/ノーノ:. . . . .苦悩に満ちながらも晴朗な波. . .(エレクトロニクス:有馬純寿)/シューマン:暁の歌、他

北村のリサイタルは、現代作品をシューマンで挟んだ意欲的なプログラム (C)飯田耕治 提供:東京文化会館
北村のリサイタルは、現代作品をシューマンで挟んだ意欲的なプログラム (C)飯田耕治 提供:東京文化会館

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〈アレクセイ・セメネンコ(ヴァイオリン)&アンドレイ・ググニン(ピアノ)デュオ・リサイタル〉

2月14日(火)品川区立五反田文化センター音楽ホール

グリーグ:ホルベアの時代から/ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ/シルヴェストロフ:ポスト・スクリプトゥム/プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番

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~孤高の道を歩む北村、稀有なプログラミングで魅了~

 2005年に東京音楽コンクールの本選審査員を務めた時、ベルクのソナタを平然と弾いた中学2年生がピアノ部門第1位だけでなく、全部門共通の審査員大賞を獲得したのに驚いた。北村は以後も孤高の道を究め、30歳を超えた今、ますます稀有(けう)のプログラミングで聴く者を引きつける。とりわけザルツブルクの夭折(ようせつ)詩人トラークルに基づくホリガー、エレクトロニクスを交えたノーノの断崖絶壁からシューマンに戻る配列に感心。ウクライナのヴァイオリニストとロシアのピアニストによる質の高いデュオに接した先に、希望はあるのだろうか?

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈京都市交響楽団 第677回定期演奏会〉

4月15日(土)京都コンサートホール

沖澤のどか(指揮)
メンデルスゾーン:序曲「ルイ・ブラス」/メンデルスゾーン:交響曲第4番 「イタリア」/ブラームス:交響曲第3番

 

京響の常任指揮者就任後、初の定期となる4月定期に熱視線が注がれる沖澤のどか (C)京都市交響楽団
京響の常任指揮者就任後、初の定期となる4月定期に熱視線が注がれる沖澤のどか (C)京都市交響楽団

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〈東京春祭2023「キット・アームストロング(ピアノ)鍵盤音楽年代記-1520〜2023」〉

4月1日(土)、4日(火)、6日(木)、8日(土)、10日(月)、東京文化会館小ホール

伝T・プレストン:ラ・ミ・レの上で/J・S・バッハ:かくも喜びに満てるこの日/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番/ショパン:夜想曲第5番/シェーンベルク:6つのピアノ小品/K・アームストロング:素描のエチュード、他

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~沖澤のどか、初の国内シェフ就任~

2020年からベルリン・フィルでキリル・ペトレンコのアシスタントを務めてきた沖澤のどかが日本で初めてのシェフ(首席)ポストを得て、京都で新たな仕事を始める。聴く度に演奏が説得力を増し、スケール大きく歌わせる美点に磨きがかかってきたので今後、京都市響とどのような音楽を造型していくのか、興味は尽きない。東京春祭のキット・アームストロングは6世紀にわたる鍵盤音楽の歴史を現代のピアノで俯瞰(ふかん)、最後は2023年の自作初演に至る5回シリーズ。前代未聞の試みといえる。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ニコラ・アルトシュテット 無伴奏チェロ・リサイタル〉

2月19日(日)紀尾井ホール

J・S・バッハ:無伴奏チェロ組曲第1~5番

ハイドン・フィルの芸術監督も務め、モダンとピリオドを自在に弾き分けるニコラ・アルトシュテット (C)Marco Borggreve
ハイドン・フィルの芸術監督も務め、モダンとピリオドを自在に弾き分けるニコラ・アルトシュテット (C)Marco Borggreve

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〈二期会オペラ プッチーニ:「トゥーランドット」新制作〉

2月25日(土)東京文化会館

ディエゴ・マテウス(指揮)/ダニエル・クレーマー(演出)/新日本フィルハーモニー交響楽団/チームラボ(セノグラフィー、デジタル&ライトアート)/田崎尚美(トゥーランドット)/ジョン・ハオ(ティムール)/樋口達哉(カラフ)/竹多倫子(リュー)他

※ルチアーノ・ベリオによる第3幕補作版

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~クラシックの未来を照らす新時代のソリスト、オペラ演出に喝采を~

30年ほど前NYで聴いたヨーヨー・マの無伴奏チェロ組曲全曲演奏会は、ディナーを挟む3部構成で一大イベントだった記憶がある。若きアルトシュテットのそれは全5曲だとしても、自然体でどこまでも雄弁な右手のボウからイマジネーション豊かにつづられた音楽は時間を忘れ、アンコールでよもや全曲?と思わせるほど別次元の才能を示した。

二期会の「トゥーランドット」はデジタルアートが見事に舞台と融合、ベリオ版の結びも効果的だった。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.14「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〉

4月6日(木)、9日(日)東京文化会館大ホール(演奏会形式)

マレク・ヤノフスキ(指揮)/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ/エギリス・シリンス(ザックス)/ディヴィッド・バット・フィリップ(ヴァルター)/アドリアン・エレート(ベックメッサー)/ヨハンニ・フォン・オオストラム(エーファ)他

 

東京春祭2013年開催時の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より (C)青柳聡
東京春祭2013年開催時の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より (C)青柳聡

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〈新国立劇場 開場25周年記念公演 ヴェルディ:「アイーダ」〉

4月5日(水)、8日(土)、11日(火)、13日(木)、16日(日)、19日(水)、21日(金) 新国立劇場オペラパレス

カルロ・リッツィ(指揮)/フランコ・ゼッフィレッリ(演出ほか)/粟國淳(再演演出)/東京フィルハーモニー交響楽団/セレーナ・ファルノッキア(アイーダ)/ロベルト・アロニカ(ラダメス)/アイリーン・ロバーツ(アムネリス)/須藤慎吾(アモナズロ)他

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~ワーグナー&ヴェルディの豪華オペラ競演の春~

 東京春祭のワーグナー・シリーズは、10年ぶりに「マイスタージンガー」を取り上げる。名匠ヤノフスキのもと世界的なワーグナー歌手の競演に注目だ。ベックメッサーのエレートは日本でもおなじみの当たり役だけに演奏会形式とはいえ見どころ十分だろう。

 絢爛(けんらん)豪華な舞台で人気を誇る新国立劇場の「アイーダ」では、同劇場「ファルスタッフ」(18年)が見事だった指揮のカルロ・リッツィ、初登場のテノール、ロベルト・アロニカに期待したい。

先月のピカイチ

◆◆2月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈新国立劇場 ヴェルディ「ファルスタッフ」〉

2月12日(日)新国立劇場オペラパレス

コッラード・ロヴァーリス(指揮)/ジョナサン・ミラー(演出)/三浦安浩(再演演出)/東京交響楽団/新国立劇場合唱団/ニコラ・アライモ(ファルスタッフ)/ホルヘ・エスピーノ(フォード)/ロベルタ・マンテーニャ(アリーチェ)他

 

ニコラ・アライモが題名役を務めた新国立劇場「ファルスタッフ」撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
ニコラ・アライモが題名役を務めた新国立劇場「ファルスタッフ」撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

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〈ブルース・リウ ピアノ・リサイタル〉

2月24日(金)東京オペラシティ コンサートホール

ショパン:モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の〝お手をどうぞ〟の主題による変奏曲、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」/リスト:ドン・ジョヴァンニの回想、他

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~5度目再演、充実の「ファルスタッフ」~

 新国の「ファルスタッフ」はプレミエ(2004年)を含めて5度目の上演だけに細部まで作り込まれた充実のステージに仕上がっていた。題名役のアライモは豊かな声量を活かしてニュアンスに富んだファルスタッフ像を描き出し、ほかの歌手たちも表情豊かな歌唱と演技で観客・聴衆を魅了。指揮のロヴァーリスは声に寄り添う響きの構築を柔軟に行い公演の成功に貢献していた。ショパン・コンクールの覇者リウは完璧なテクニックと優勝の勢いが伝わってくるような生気あふれる演奏が印象に残った。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.14「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〉

4月6日(木)、9日(日)東京文化会館大ホール(演奏会形式)

マレク・ヤノフスキ(指揮)/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ/エギリス・シリンス(ザックス)/ディヴィッド・バット・フィリップ(ヴァルター)/アドリアン・エレート(ベックメッサー)/ヨハンニ・フォン・オオストラム(エーファ)他

 

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〈NHK交響楽団 第1980回定期公演A〉

4月15日(土)、16日(日)NHKホール

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)

リヒャルト・シュトラウス:「ヨセフの伝説」から交響的断章、アルプス交響曲

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~名匠ヤノフスキの「マイスタージンガー」に注目~

 東京春祭ワーグナー・シリーズで「マイスタージンガー」が取り上げられるのは2013年以来、2度目。シリーズも二巡目に入りこれまでの蓄積をベースにして一層の充実が期待される。指揮のヤノフスキはバイロイト音楽祭でも実績を残してきた名匠であり、彼ならではの質実剛健たる演奏で作品の魅力を明らかにしてくれるはずだ。パーヴォ指揮のN響定期は首席指揮者在任時から続けてきたR・シュトラウス・シリーズの一環。大管弦楽を要する音のパノラマをパーヴォは緻密かつ雄大に描き出してくれるに違いない。

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