カンタービレと歯切れ良さが共生する生気に満ちた古典
4月の読響名曲シリーズ。イギリスの名匠アイヴァー・ボルトンの指揮で、ハイドンの歌劇「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」序曲、モーツァルトのピアノ協奏曲第19番(独奏:河村尚子)、ベートーヴェンの交響曲第7番が披露された。すなわちウィーン古典派の3大家プログラムだ。
ボルトンといえばピリオド流儀応用型のイメージがある。確かに本日も、切り詰められた編成(前半が10型、後半が12型で、低弦をやや増強。管楽器は重ねず、ティンパニは古い小型モデル)で対抗配置、弦楽器は基本的にノン・ヴィブラートで、そうしたスタイルを実感させる。
ところがハイドンの出だしの豊かな響きに驚かされる。これは、ボルトンの手腕か、読響の底力か、あるいはその両方なのだろうか? ともかくカロリー不足の感はまるでなく、小回りが利くメリットと濃密なサウンドを共生させた演奏が続く。もう1つ全体の特徴は、〝カンタービレと歯切れ良さの共生〟。これによって、古典が生き生きと再生されていく。この点はボルトンの美質であろう。
生演奏の稀なハイドンの序曲は、たっぷりとした序奏から軽快に歌う主部へ移り、短いながらも録音で聴く以上に立派な音楽が展開される。
モーツァルトは河村のソロが出色。第1楽章から粒立ちの良い音で闊達な音楽が繰り広げられる。第2楽章の陰影も見事で、瑞々しい木管との応接は20番台の名作を彷彿させる。第3楽章は愉悦感十分で、ピアノが縦横に駆け巡る。一部を除いてノン・ペダルによる独奏だったが、これは本人いわく「曲の良さを生かすため」の自主判断で「ボルトンからの指示は一切なかった」との由。つまり、河村とボルトンの方向性が合致しての快演でもある。アンコールの「トルコ行進曲」では、トルコ風の強打の場面で弦楽器の各首席奏者が打楽器を受け持つ楽しい演出もあった。
〝カンタービレと歯切れ良さ(リズム)の共生〟となれば、ベートーヴェンの7番の特徴そのもの。各楽章の基本リズムが明確に強調されながらも伸びやかに歌われる点に加えて、全体にテンポが速いので、推進力と歯応えが同時に耳を奪い、第1楽章のリズムのいつにない明瞭さや第3楽章トリオの反復でのティンパニの猛烈なクレシェンド等の新鮮な効果も交えながら、全曲を一気呵成に駆け抜ける。
すこぶる生気に満ちた古典の夕べ。
(柴田克彦)
公演データ
読売日本交響楽団 第691回名曲シリーズ
4月22日(水)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:アイヴァー・ボルトン
ピアノ:河村尚子
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:戸原 直
プログラム
ハイドン: 歌劇「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」序曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第19番ヘ長調 K.459
ベートーヴェン:交響曲 第7番イ長調 Op.92
ソリスト・アンコール
モーツァルト:トルコ行進曲
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










