ユニークさの極みのようなプログラムを聴いたスリリングな一夜
猛烈に立ち上がりの速い音で疾走するチェロ、時に手を高く振り上げながら、やはり鋭い音で共演どころか時に独演するピアノ。本当にスリリングな一夜だった。
25歳時の若きベートーヴェンのエネルギーが爆発する2楽章制のソナタ第1番は、冒頭楽章の長い提示部をリピートしたことも手伝っていつ果てることもなく続いた。チェリストは弓を拳一つ半ほど短めに持ち、軽く速く弦に当てながら、次々と現れては消える短い主題や動機を処理していくので全く気が抜けない。
チェロ作品に名品の多いコダーイ。しかし演奏されたのは演奏時間7分ほどの単一楽章「ソナティナ」(1922)。前の曲が終わってすぐ、ツィンバロン音楽を思わせる民俗的な五音音スケールが鳴り響いて会場の雰囲気は一気に「東欧」へジャンプ。そのあとアタッカで次のドビュッシーへワープしてしまう。おっと、そう来たかという感じ。ドビュッシーは「ソナタ」と名乗りながらも最初のベートーヴェンとは曲の作りがあまりに違うので、わかってはいても耳と頭が付いていくのに一苦労。それにこんなアグレッシブ、ほとんど喧嘩腰(もちろんドイツ音楽に対して)なドビュッシーもあるのか。
バーバーは少しだけ有名なチェロ協奏曲(1945)ではなくて、演奏時間18分ほどのソナタ(1932)。シャーマーから出ている楽譜などにも調性は明記されていないがほぼハ短調の後期ロマン派風作品で、出だしなどラフマニノフかと思ってしまう。音が10度、オクターブとポンポン飛んで行き、それをアルトシュテットは驚くほど正確で音楽的な音程で歌っていくので「あららら」という感じ。
3曲の「無伴奏組曲」(1964/67/71)がチェリストの必須演奏曲目に昇格しているブリテンも、演奏されたのはピアノを伴うソナタ(1961)のほう。初演者のロストロポーヴィチ/作曲者による録音が有名だが「そんなの知らない」(まさか!?)と言わんばかりに、ロストロ/ブリテンによる長いフレージングや太く暗い響きによる再現とは正反対の、弓を軽めに当てて時に軽快に(最終第5楽章)駆け抜けるという、全く新しい演奏だった。
2人はアンサンブルでの共演は数多いもののデュオは今回が初めて。ユニークさの極みのような曲はチェリストが決めたという。
(渡辺和彦)
公演データ
ニコラ・アルトシュテット(チェロ)プロジェクト 第1夜―Duo
5月26日(火)19:00 TOPPANホール
チェロ:ニコラ・アルトシュテット
ピアノ:ヨーナス・アホネン
プログラム
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第1番 ヘ長調 Op.5-1
コダーイ:ソナティナ
ドビュッシー:チェロ・ソナタ
バーバー:チェロ・ソナタ Op.6
ブリテン:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.65
アンコール
モートン・フェルドマン:DurationsⅡ
ブリテン:チェロ・ソナタOp.65から第4&第5楽章
わたなべ・かずひこ
音楽評論家。北海道生まれ。弦楽器と歌(他ジャンルを含む)、猫、小鳥好き。
NHK「朝のバロック」他の企画構成を約20年担当、FM東京(現トーキョーFM)クラシック番組担当も長く務める。前後して「ヴァイオリニスト33」(河出書房新社)、「ヴァイオリン・チェロ名曲名演奏」(音楽之友社)、「ラテン・クラシックの情熱」(水曜社)などを発表。最初の著作「クラシック辛口ノート」(洋泉社)のため「辛口評論家」と言われることも多いが実はそれほどでもない。










