古き良き時代からのフランスならでのサウンドによる歌心あふれるブラームスが聴衆を魅了
イル・ド・フランス国立管弦楽団の初来日公演からプログラムBを聴いた。指揮はAプロと同じく日本人の母を持つ米国人のユージン・ツィガーン。
先月のドレスデン・フィルの速リポ(ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァイオリン 樫本大進 | CLASSICNAVI)でも書いたが、地域に根差した活動を行っているオーケストラの方が、例えばパリ管のようなメジャー楽団よりも、その国・地域ならではのサウンドが残っていると感じることが最近、よくあるがこの日のイル・ド・フランスもまさにそんな演奏会であった。
1曲目はお国もののドビュッシーの2つのアラベスク。弦楽器は12型での演奏。とにかく響きが柔らかくて明るい。フレージングは滑らかでリズム運びも軽やか。木管陣のアーティキュレーション(音と音の繋げ方)は丸みを帯びた感じで、ひとりひとりがソロイスティック。音楽の世界でもグローバル化が進んだ今は聴くことが少なくなったまさにフランス的な響きであった。
ユーチューバーとしても活躍する石井琢磨をソリストに演奏されたグリーグのピアノ協奏曲はAプロと共通演目なので、池田卓夫氏による同公演の速リポ(ユージン・ツィガーン指揮イル・ド・フランス国立管弦楽団東京公演 | CLASSICNAVI)をご覧いただきたい。
メインはブラームスの1番。弦楽器を14型(コントラバスは5本だった)。開演前のツィガーンによるプレ・トークによると「ブラームスが在世当時はもっとテンポを動かして〝歌う〟演奏をしていた。イル・ド・フランスは歌うことを得意とするオケなので、そうした演奏をすることで作品の新たな魅力を明らかにしたい」との趣旨の話をしてドイツ音楽の本流であるブラームスを取り上げる意義を説明した。
実際の演奏は彼の言葉の通り、提示部から展開部へと移行する箇所などでテンポをグンと落として旋律を十分に歌わせる。ちなみに器楽の世界で〝歌う〟とはタップリと表現することである。
主旋律を裏で支える管楽器も雄弁な彩りを添える。第4楽章の第1主題、冒頭の弦楽器がG(ソ)で導入するアウフタクトもかなり長めにとり悠然たるテンポで演奏、オケ全体のトゥッティとなるとテンポを一気に加速して変化を付けた。全曲にわたって緩急を軸とした変化に富んだ音楽作りが行われたが、ティンパニ奏者のドイツ・スタイルの骨太の演奏によって土台が堅固に構築されていたことで、全体としては異質にならずに多彩な表現が満載のブラームスに仕上がっていた。盛大な喝采に応えてブラームスのハンガリー舞曲5番をアンコール。ツィガーンは客席に向かって手拍子を誘導し、ホール全体が一体となる楽しいフィナーレとなった。
(宮嶋 極)
公演データ
ユージン・ツィガーン指揮 イル・ド・フランス国立管弦楽団 東京公演 プログラムB
7月15日(水)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:ユージン・ツィガーン
ピアノ:石井 琢磨
管弦楽:イル・ド・フランス国立管弦楽団
ドビュッシー(ムートン編):2つのアラベスク
グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調Op.16
ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68
アンコール
サティ:ピカデリー(ソリスト)
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番嬰ヘ短調(オーケストラ)
他日公演
7月16日(木)19:00 アクトシティ浜松 ia 大ホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










