ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァイオリン 樫本大進

失われつつある旧東ドイツの渋く深みのあるサウンドで聴衆を魅了したラニクルズ指揮ドレスデン・フィル

ドナルド・ラニクルズ指揮、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演2日目(サントリーホール)を聴いた。22日に東京芸術劇場で行われた初日公演(ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ 亀井聖矢 | CLASSICNAVI)とメインは同じで前半の演目を入れ替えたプログラム。

ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団東京公演2日目。ドナルド・ラニクルズが指揮台に立った
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団東京公演2日目。ドナルド・ラニクルズが指揮台に立った (C)Naoya Ikegami

1曲目はウェーバーの「オベロン」序曲。弦楽器は14型の編成。アレグロ・コン・ブリオの指示があるニ長調の主部に入るとオケ全体のサウンドに魅入られてしまった。月並みな表現だが、いぶし銀のような風合いとでもいうのだろうか。華やかさはないが、渋く深い響き、かつて冷戦時代まで東ドイツや東欧圏のオーケストラの特徴であった音色が東西ドイツ統合から四半世紀以上が経った今も残っていたからだ。スーパー多国籍軍団ともいえるベルリン・フィルや南ドイツのエリート集団、バイエルン放送響はもちろん、シュターツカペレ・ドレスデンからでさえ、失われつつある古き良きドイツの響きが健在であった。

この特色は2曲目、ベルリン・フィルの第1コンサートマスターを務める樫本大進をソリストに迎えてのブルッフのヴァイオリン協奏曲でも一層際立って聴き取ることができた。樫本の華やかで張りのある音色と好対照をなすドレスデン・フィルの渋く落ち着いたサウンド。取り合わせの妙を感じさせてくれる共演であった。そして樫本の一層磨きがかかったテクニックと音楽性、さらに自らのソロでオケ全体を自然にリードしていく力は目を見張るものがあった。

樫本大進をソリストに迎えたブルッフのヴァイオリン協奏曲。樫本のオケ全体を自然にリードしていく力には目を見張るものがあった
樫本大進をソリストに迎えたブルッフのヴァイオリン協奏曲。樫本のオケ全体を自然にリードしていく力には目を見張るものがあった(C)Naoya Ikegami

メインは22日と同じマーラーの1番で、弦楽器を16型に増強、管楽器は譜面の指定通りの数での演奏。この曲から2024年の東京・春・音楽祭、ワーグナー「ニーベルングの指環」でマレク・ヤノフスキ指揮N響の公演でコンサートマスターを務めたヴォルフガング・ヘントリッヒがコンマス席に座った。ヤノフスキの信頼が厚い名手である。
ラニクルズは全曲にわたって標準的なテンポで演奏を進め、極端な大音量を求めたりせずにバランスを重視した音作り。各プレーヤーの個人技やオケ全体のアンサンブルの精度という面では東京の主要オケの方が高いレベルにあると思われるが、やはりこのオケならではのサウンドによって紡がれた音楽は日本のオケはもちろん、ドイツのスーパー・オケでも聴くことができない懐かしさや温かみを感じさせてくれるものであった。聴いていてベルリンの壁崩壊前後、旧東ベルリンやドレスデンなどの古く、くすんだ街並みが脳裏に浮かんできた。第4楽章のコーダではホルン7本が立奏を指示されている箇所で、初めてトロンボーン1本を加えての演奏となったが、それでも最後まで絶妙なバランスを崩すことなく独自の風合いを堅持したまま全曲を締め括った。盛大な喝采に応えてブラームスのハンガリー舞曲第5番をアンコール。ドレスデン・フィルのサウンドがこの曲に見事なまでにマッチしていた。

(宮嶋 極)

マーラーの交響曲 第1番「巨人」は、ドレスデン・フィル独自の風合いを堅持した演奏で、懐かしさや温かみを感じさせた 
マーラーの交響曲 第1番「巨人」は、ドレスデン・フィル独自の風合いを堅持した演奏で、懐かしさや温かみを感じさせた (C)Naoya Ikegami

公演データ

ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

6月25日(木) 19:00サントリーホール 大ホール

指揮:ドナルド・ラニクルズ
ヴァイオリン:樫本 大進
管弦楽:ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:ヴォルフガング・ヘントリッヒ(後半)

プログラム
ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲J.306
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲ト短調Op.26
マーラー:交響曲 第1番「巨人」ニ長調GMW11

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン パルティータ第3番よりルーレ

オーケストラ・アンコール
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番

他日公演
6月28日(日)14:00横浜みなとみらいホール 大ホール(神奈川)

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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