カーチュン・ウォン指揮、日本フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者就任披露公演

若き新シェフの意欲に日本フィルが全力で応えた極上の名演

カーチュン・ウォンの日本フィル首席指揮者就任披露演奏会。選曲=マーラーの交響曲第3番にも強い意気込みが窺える。そして結果は、その意気にオーケストラが全力で応えた、極上の滑り出しとなった。

日本フィル首席指揮者カーチュン・ウォン Ⓒ山口敦
日本フィル首席指揮者カーチュン・ウォン Ⓒ山口敦

第1楽章はまず冒頭のホルンの豊かな響きが耳を奪う。その後は、あらゆる動きに目配りされた演奏が続き、打楽器の弱音のリズムをはじめ、普段曖昧(あいまい)になりがちな部分が丁寧に表出される。しかもそれらが全て息付いている点が素晴らしい。トロンボーン独奏も見事だ。第2楽章も同様だが、曲調に即してしなやかな風情が醸し出される。第3楽章は柔らかく夢幻的。特に遠くで鳴るポストホルンが極めて美しい。日本の楽団でかくも完璧かつ精妙なソロを聴いたのは初めてだ。第4楽章はしなやかな音色のもとで山下牧子が表情豊かに歌う。第5楽章も、単純な「ビムバム」の連呼ではなく、やはり表情変化が細かい。第6楽章は、意外なほど弱音(楽譜上は確かにppだ)の出だしから、各フレーズがデリケートに綾をなし、顕著な場面変化を伴いながらクライマックスへと向かう。最終盤の頂点で舞台に広がった打楽器奏者7人が同時にシンバルを鳴らしたのは視覚的効果抜群でもあった。

若き新シェフ、ウォンの意欲に応えて名演を聴かせた日本フィル Ⓒ山口敦
若き新シェフ、ウォンの意欲に応えて名演を聴かせた日本フィル Ⓒ山口敦

全体的に見れば感銘深い出色の名演。特に前半3楽章は日本の楽団の同曲演奏中のベストと言っていい。ウォンの指示は微細にして的確で、日本フィルも最高度のパフォーマンスを展開した。敏腕新シェフとの今後が実に楽しみだ。

※取材は14日の公演
(柴田 克彦)

公演データ

【日本フィルハーモニー交響楽団第754回東京定期演奏会】

カーチュン・ウォン首席指揮者就任披露演奏会
10月13日(金)19:00、14日(土)14:00 サントリーホール

指揮:カーチュン・ウォン
メゾ・ソプラノ:山下 牧子
合唱:harmonia ensemble、東京少年少女合唱隊

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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