尾高の巨匠としての音楽作りが聴衆を唸らせる
大阪フィルは、音楽監督の尾高忠明指揮で、~永遠(とわ)の浪漫~と題して6月から11月まで4回のラフマニノフ・ツィクルスを行っている。3つの交響曲と2番から4番までのピアノ協奏曲、パガニーニの主題による狂詩曲、そして交響的舞曲が演奏される意欲的な企画。ピアノ協奏曲第1番は、過去の定期演奏会で取り上げたことからラインナップからは外れた。
第2回の公演の回は、演奏機会の少ないピアノ協奏曲第4番と対照的にオーケストラの重要なレパートリーである交響曲第2番が並んだ。
ピアノ協奏曲のソリストとして登場したエヴァ・ゲヴォルギヤンが見事な演奏を聴かせた。2021年のショパン国際ピアノコンクールで最年少ファイナリスト(当時17歳)に残り、話題となったが、その後順調に成長した姿を見せた。
ピアノ協奏曲第4番は、作曲者がロシア在住の1914年に着手され、渡米後1926年に完成、前作第3番と比較すると大胆な和声展開、転調、ジャズのリズムなどを用いた。瞬間瞬間にスパークするような劇的で魅惑的な音の綾が連綿と続く〝未来の音楽〟を睨(にら)んだ作品となったが、当時の観客には理解できずに初演でも成功をおさめなかった。いまでも人気という面では、今一つである。
しかし、この夜のようなピアノとオーケストラが、第1楽章では「音色」、第2楽章以降は「旋律」を重視した対話をさまざまな形で繰り広げる演奏で聴くと、作曲家として「毀誉褒貶(きよほうへん)」を繰り返しながらも常に未来への挑戦を模索し続けたラフマニノフの到達点がここにあると感じることができる。非常に稀有(けう)な体験となった。
後半は尾高が幾度となく演奏してきた交響曲第2番。〝ここを聴いてくれ〟と力まずとも自然に音を運びながら音楽に雄弁に語らせる、尾高の巨匠としての音楽作りが聴衆を唸(うな)らせた。特に第3楽章の甘美な〝うた〟をこの楽章のクライマックスに向けて、綿密に盛り上げていく綿密な設計のうまさには舌を巻いた。終演後の聴衆の熱狂した拍手が尾高と大フィルコンビの演奏の充実を示していた。
今後も交響曲第3番、交響的舞曲など、今日でも発見の余地のある作品が並び、このツィクルスは聴き逃せない。
(平末 広)
公演データ
ザ・シンフォニーホール特別演奏会
ラフマニノフ・ツィクルス ~永遠(とわ)の浪漫~ Ⅱ
8月28日(金)19:00ザ・シンフォニーホール(大阪)
指揮:尾高忠明
ピアノ:エヴァ・ゲヴォルギヤン
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙
プログラム
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第4番 ト短調 Op.40
ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 Op.27
ソリスト・アンコール
チャイコフスキー(プレトニョフ編):バレエ音楽「くるみ割り人形」より〝グラン・パ・ド・ドゥ〟
ビゼー(ヴォロドス編):歌劇「カルメン」より〝アラゴネーズ〟
ひらすえ・ひろし
音楽ジャーナリスト。神戸市生まれ。東芝EMIのクラシック担当、産経新聞社文化部記者、「モーストリー・クラシック」副編集長を経て、現在、滋賀県立びわ湖ホール・広報部。EMI、フジサンケイグループを通じて、サイモン=ラトルに関わる。キリル・ぺトレンコの日本の媒体での最初のインタビューをしたことが、ささやかな自慢。










