角野隼斗が自作曲を世界初演! ベルリオーズ「幻想」はブリューズの全体設計の手腕が光る演奏
フランス人ピエール・ブリューズが指揮する、サントリーホールでの東京交響楽団の定期演奏会。
前半の主役はピアノの角野隼斗だ。まずは自作、ピアノとオーケストラのための「無我」の世界初演。オーケストレーションも自らの手で行ったという約10分の作品は静かに、朝の光が窓から差し込むように始まるが、俄(にわか)に激しく細かく動く。静と動の交代が繰り返されるなかに、叙情的な旋律が挿入される。角野のプログラム・ノートによると、「割り切れないまま前へ流れ続ける」11拍子の脈動が全体を貫き、どこにも安住しない。イメージの固定を嫌い、新たな道を模索し続ける、角野自らのありかたを象徴しているかもしれない。
続いて、再び角野を独奏に、カプースチンのピアノ協奏曲第4番。動的な箇所ではドラムス(高橋信之介)がリズムを刻む、ジャズ的なカラーの濃い作品。カデンツァのソロも含めて、角野の軽快なタッチが躍動する。拍手に応えてのアンコールは、同じくカプースチンの8つの演奏会用エチュードから、トッカティーナ。
後半は、ベルリオーズの幻想交響曲。音響空間を構築するブリューズの手腕が見事で、目の覚めるように鮮やかな演奏となった。
開演前、舞台の最前列、指揮者の両脇に並べられた2台のハープが目をひく。第1楽章はじっくりと、立体的に見とおしよく描かれる。弦の響きが美しく澄明。第2楽章冒頭での左右のハープの対話で、独自の配置が効果を発揮する。きわめて優美なワルツ。第3楽章では、舞台上のイングリッシュホルンと舞台外のオーボエの牧歌の応答の遠近感が、緊張感をはらみつつ最後にも繰り返されると、最後列に広がるティンパニ4台が遠雷の如(ごと)く鳴り響く。黒雲が一気に空を覆うように、不安感が包んでくる。
第4楽章「断頭台への行進」ラストの小太鼓の緊迫感も恐ろしい。ベルリオーズが生きたのは、ギロチンが大活躍したフランス革命の混乱期の記憶がまだ生々しい時代だったということを、あらためて実感させる。
そして第5楽章、ブリューズは初めてパワーを全開させ、暴力的なフォルティッシモを響かせた。凡庸な演奏だと、ここへ来るまでにガチャガチャして飽きてしまうのだが、ぐっと抑えて緊張と集中を保ってきた、全体設計の見事さが生きる。しかもつぶれたり濁ったりせず、きれいに鳴りわたって、最後の狂乱へ。
東京交響楽団とは2024年に続き、これが2回目の共演。3回目以降の実現も期待したい。
(山崎浩太郎)
公演データ
東京交響楽団 第744 回 定期演奏会
8月22 日(土)18:00サントリーホール 大ホール
指揮:ピエール・ブリューズ
ピアノ:角野 隼斗
ドラムス:高橋 信之介
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:景山 昌太郎
プログラム
角野隼斗:ピアノとオーケストラのための「無我」(世界初演)
カプースチン:ピアノ協奏曲 第4番 Op.56
ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14
ソリスト・アンコール(ピアノ)
カプースチン:8つの演奏会用エチュード Op.40より第3番 トッカティーナ
他日公演
8月23日(日)14:00ミューザ川崎シンフォニーホール
やまざき・こうたろう
演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。










