小泉和裕と九響の息の合ったコンビが美しく暖かな雰囲気を湛えて「天国」を表現
九州交響楽団の10月定期演奏会、終身名誉音楽監督の小泉和裕の指揮で「天国を描く」のイメージ・タイトルのもと、シューベルトの交響曲第5番、リストの「ダンテの“神曲”による交響曲」が演奏された。
1曲目のシューベルトは弦楽器を12型に絞り、第1楽章から木管楽器との間で緊密なアンサンブルを繰り広げながら、チェロ・バスをしっかりと鳴らして重心の低いドイツ的な音作りを行っていく。ヴィブラートを適度にかけ、ソナタ形式の提示部の繰り返しは行わないなど、流行のピリオド演奏に寄せたものとは一線を画したスタイルであったが、これが「天国」のイメージに近い柔らかで美しいサウンドを醸成することに効果を発揮していた。第4楽章もみずみずしい生命感に溢れた演奏となった。
後半、リストの「ダンテの“神曲”による交響曲」はダンテ交響曲とも呼ばれる所要時間50分超、3管編成(ファゴットのみ2本)を要するリストが40歳代半ばの時に完成させた大作。タイトルの通りダンテの「神曲」にインスピレーションを得て創作された作品で、当初は地獄・煉獄・天国の3楽章の交響曲として構想されていた。これについて、親交が深かった(後に義理の息子にもなる)ワーグナーに意見を求めたところ、「天国の喜びを人の声や演奏で表現するのは不可能」とのアドバイスを受け、第1楽章「地獄」、第2楽章「煉獄」、そして第2楽章の終結部に代えて女声合唱を伴うマニフィカートで締め括ることで、地上から天国を仰ぎ見る様子を描く交響詩のような性格の作品として完成させた。
この作品では弦楽器14型、コントラバスだけは1本多い7人と重厚な響きを構築しようとの小泉の意図が伝わってくる。第1楽章冒頭、2組のティンパニによる強奏からオーケストラ全体を力強く鳴らし地獄の世界観を激烈なタッチで描き出していく。最初の部分、無調ではないものの、調性が不明瞭な状態がしばらく続く箇所で小泉は調性の変化による響きの違いよりは地獄の階層を下っていくことを象徴する下降音形を骨太に表出させることに注力していたように映った。
第2楽章は九響弦楽器セクションの重心が低く柔らかなサウンドと木管楽器とホルンのソロイスティックな掛け合いが印象に残る演奏が披露された。マニフィカートの女声合唱は九響合唱団。舞台下手、ヴァイオリンの後ろに40人、舞台袖に1人が並び、繊細なタッチで天国を仰ぎ見て神を讃える情景が美しく描かれ、穏やかな雰囲気で全曲を締め括った。
(宮嶋 極)
公演データ
九州交響楽団 第443回定期演奏会
10月7日(水)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
指揮:小泉和裕
女声合唱:九響合唱団(合唱指揮:横田 諭)
管弦楽:九州交響楽団
コンサートマスター:扇谷泰朋
プログラム
シューベルト:交響曲 第5番 変ロ長調D.485
リスト:ダンテの“神曲”による交響曲(ダンテ交響曲)S.109 /R426a
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










