世界へ広がる久石譲のサウンド――自身の新作日本初演と、フィリップ・グラス作品を指揮して多様な音楽フィールドを大胆に越境
世界各地の主要オーケストラに客演し、近年はグラモフォン・レーベルからアルバムを発表するなど、作曲家、指揮者の両面で世界的な注目を集める久石譲。「フューチャー・オーケストラ・クラシックス vol.8」は、特別編成のフューチャー・オーケストラ・クラシックスを指揮して作曲家の視点からクラシック音楽の新たな魅力を引き出すシリーズである。今回はフィリップ・グラスの“Low”Symphony(交響曲第1番)と、日本初演となる久石自身の新作Concerto for Orchestra(管弦楽のための協奏曲)という、日米のミニマル・ミュージックを代表する2人の作品が並んだ (8月25日、サントリーホール)。熱心なファンが詰めかけ、チケットは完売。
前半の“Low”Symphony(交響曲第1番)は、デヴィッド・ボウイがブライアン・イーノと共に1977年のアルバム「Low」を素材に、1992年に作曲された作品。アルバム収録曲「Subterraneans」「Some Are」「Warszawa」をもとに、電子音がアコースティックなオーケストラに置き換えられることで、原曲に漂うベルリンの閉塞的な空気や鋭角的なロックの感触は柔らげられ、弦と管楽器が織りなす抒情的で透明な響きへと姿を変える。とりわけ第2楽章にはシベリウスを思わせる瞬間すらあり、第3楽章ではその柔らかな情感と陰影が際立った。豊かな旋律性と、ひややかな感触を持つ反復性とが共存する音楽。ボウイの原曲を知らなくても十分に、知っていればさらに楽しめる作品である。オケも精緻なアンサンブルで好演(コンサートマスター:近藤薫)。
後半は、ワシントン・ナショナル交響楽団、パリ管弦楽団、シカゴ交響楽団、トロント交響楽団など10団体の共同委嘱によるConcerto for Orchestra(管弦楽のための協奏曲)。バルトークの同名作と同じ5楽章形式を採り、ジャズや民族音楽、ミニマル・ミュージックなど多様な書法を横断する。各セクションのトップ奏者がソロを担い、音響が対立と融和を繰り返す構造からも「協奏曲」という題名に納得がいく。さらにプロコフィエフやショスタコーヴィチ、ラテン音楽、そしてジブリ作品を思わせる断片までが交錯し、音楽は多層的な表情を獲得する。多彩な音色と5楽章への分割によって、約45分の作品でも集中力を失わせない構成力も見事。
ミニマルの反復が生む独特の時間感覚も久石譲ならではのものだ。テンポを自在に揺らしながら自然な流れと律動感を両立させた指揮は、まさに久石の真骨頂。世界的な人気を持つ作曲家・指揮者の現在地を実感させる一夜となった。
(城間 勉)
公演データ
JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.8
8月25日(火)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:久石譲
管弦楽:フューチャー・オーケストラ・クラシックス
コンサートマスター:近藤 薫
プログラム
フィリップ・グラス:“Low”Symphony(交響曲第1番)
久石譲:Concerto for Orchestra
他日公演
8月26日(水)19:00サントリーホール 大ホール
しろま・つとむ
音楽大学で音楽学を学ぶ。卒業後はクラシック専門音楽雑誌とクラシック情報誌の編集業務に携わり、2022年からフリーランスとして活動。とくに好きなジャンルは協奏曲、ピアノ曲、オペラなど(もちろんそれ以外のジャンルも聴きます)。B級グルメ探訪を趣味としている。イヌ科の動物を愛する。









![第2幕 左から公証人(阿瀬見貴光)、トニオ(澤原行正)、マリー(砂田愛梨)、伍長(市川宥一郎)、ベルケンフィールド侯爵夫人(金澤桃子)、シュルピス(山田大智) 撮影:三枝近志 提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/11/628d6f47cb18c632a2c3e57bb72dec12-300x200.webp)
