尾高忠明指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 第600回定期演奏会

尾高=大阪フィルの円熟を示す作品の本質に迫る好演

来年(2027年)には創立80周年を迎える大阪フィルハーモニー交響楽団が、節目となる第600回定期演奏会を迎えた。音楽監督・尾高忠明がこの日に選んだのは、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」である。
創立者・朝比奈隆が第100回定期にマーラー「一千人の交響曲」、第200回にフルトヴェングラーの交響曲第2番、第300回にブルックナーの交響曲第8番を取り上げ、前首席指揮者の井上道義が第500回でバカロフ「ミサ・タンゴ」とベートーヴェン「英雄」を指揮したことを思えば、一見すると地味な選曲に映るかもしれない。しかし、この作品に寄せる尾高の深い思いと、9シーズン目に入った尾高=大阪フィルが目指してきた音楽の方向性とが、かえって鮮やかに浮かび上がった。

音楽監督・尾高忠明が登場。大阪フィルの記念すべき第600回定期演奏会で、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を披露した (C)飯島隆
音楽監督・尾高忠明が登場。大阪フィルの記念すべき第600回定期演奏会で、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を披露した (C)飯島隆

尾高はゆったりとしたテンポを基調に、若きブラームスが紡いだ豊かなハーモニーを慈しむように音楽を進める。第1曲「幸いなるかな、悲しみとともにあるひとよ」は、ヴァイオリンを欠いた渋い響きを特徴とするが、低弦とオルガンのペダルトーンが築く土台の上に、木管群が織り成す陰影は、尾高時代の大阪フィルならではの高い純度をたたえていた。

フェスティバルホールの広い舞台に並んだ大阪フィルハーモニー合唱団は、128名という大編成で臨み、尾高の熱いタクトに応えて充実した歌唱を聴かせた。第2曲「人はみな草のごとく」、第6曲「われらここにとこしえの地なく」で示された、力強さと透明感を兼ね備えた響きは、11年にわたり合唱団を育て、今年限りで勇退する合唱指揮者・福島章恭の歩みを物語る成果でもあろう。

大編成の大阪フィルハーモニー合唱団が、尾高の熱いタクトに応えて充実した歌唱を聴かせた (C)飯島隆
大編成の大阪フィルハーモニー合唱団が、尾高の熱いタクトに応えて充実した歌唱を聴かせた (C)飯島隆

さらに、どれほど壮大な場面にあっても、オーケストラの各声部が明晰(めいせき)に浮かび上がり、聴き手の耳へ自然に届くところに、尾高の円熟した境地がうかがえる。二人のソリスト、バリトンの青山貴とソプラノの吉田珠代も安定した歌唱で見事に役割を果たしたが、とりわけ青山の格調高い歌声は作品の精神によくかなっており、深い印象を残した。

バリトンの青山貴が格調高い歌声を聴かせた (C)飯島隆
バリトンの青山貴が格調高い歌声を聴かせた (C)飯島隆
ソプラノの吉田珠代も安定した歌唱で見事に役割を果たした (C)飯島隆
ソプラノの吉田珠代も安定した歌唱で見事に役割を果たした (C)飯島隆

第6曲で音楽が壮大な頂点を築いたあと、終曲第7曲「幸いなるかな、主のうちにありて死ぬるひと」は、ハープの静かなつぶやきと、永遠へと溶け込むような木管の和音によって静かに閉じられる。ホールが深い静寂に包まれ、その余韻を誰一人として破ることなく拍手が湧き起こった光景は、600回の歩みの中でオーケストラと聴衆がともに育んできた成熟の証しといえよう。

奇しくも今シーズン、大阪の四つのオーケストラはいずれも定期演奏会で「ドイツ・レクイエム」を取り上げる。その劈頭(へきとう)を飾るにふさわしい、作品の本質に迫る好演であった。
(岩野裕一)

公演データ

大阪フィルハーモニー交響楽団第600回定期演奏会

7月17日(金)19:00フェスティバルホール

指揮:尾高忠明
ソプラノ:吉田珠代
バリトン:青山貴
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団
合唱指揮:福島章恭
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文珠

プログラム
ブラームス:ドイツ・レクイエム Op.45

他日公演
7月18日(土)15:00フェスティバルホール

Picture of 岩野 裕一
岩野 裕一

いわの・ゆういち

音楽評論家。株式会社実業之日本社代表取締役社長のかたわら、日本のオーケストラを主なテーマに執筆活動を続けている。主な著書に『王道楽土の交響楽 満洲――知られざる音楽史』(第10回出光音楽賞)など。公益社団法人日本オーケストラ連盟理事。しらかわホール副館長。

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