佐渡裕指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 第655回定期演奏会サントリーホール・シリーズ

上質の音楽舞台――台詞と音楽がシンクロする革新的な演奏会

佐渡裕新日本フィル音楽監督の就任2シーズン目が開幕。この日は、ベートーヴェンの交響曲第2番、メンデルスゾーンの劇付随音楽「夏の夜の夢」(抜粋)が演奏された。佐渡監督が指揮する新日本フィルの定期演奏会では、彼の短いプレトーク(曲目の説明など)が恒例となっている。舞台と客席との距離を縮める試みとして評価したい。

ベートーヴェンの交響曲第2番は、比較的長い序奏から停滞しない良いテンポ。主部に入り、アクセントをきかせ、低音を鳴らす。勢いだけでなく、ハイドンからの流れを感じさせる古典派の典雅さも表出。第2楽章はよく歌うヴァイオリンと木管陣の柔らかな響き。第3楽章は快適テンポで、アンサンブルは良好。第4楽章では、若いベートーヴェンの情熱や野心を表現しながら、粗野にならず、温かで良い音を奏でる。佐渡は音楽監督に就任した昨シーズンから定期演奏会に「ウィーン・ライン」(ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンからブルックナー、マーラーまで)というテーマを掲げているが、それはプログラミングだけでなく、トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督を10年近く務める佐渡自身の音楽作りのスタイルの変化を表しているかのように感じられる。

「夏の夜の夢」で妖精パックを演じたウエンツ瑛士 ©大窪道治
「夏の夜の夢」で妖精パックを演じたウエンツ瑛士 ©大窪道治

後半の「夏の夜の夢」(抜粋)は照明演出入り。ウエンツ瑛士が妖精パック役を演じ、その台詞によって話を進行していく。彼はミュージカルでも活躍しているだけに台詞と音楽とのシンクロが巧みである。序曲から緻密で美しい演奏。「夜想曲」ではホルンが好演。「結婚行進曲」は格調高い。その他の箇所でも佐渡の指揮のもと丁寧な演奏を聴くことができた。「ナイチンゲールの子守唄」とフィナーレでは、独唱と児童合唱が入る。小林沙羅はチャーミングで澄んだ歌が楽曲にふさわしく、林美智子は表情豊か。One Voiceちばの歌声がほほえましい。定期演奏会としては珍しいスタイルでの上演であったが、上質の音楽舞台として楽しむことができ、定期演奏会の多様な在り方を問う試みとしても意味があった。

定期演奏会の多様な在り方を示す公演となった ©大窪道治
定期演奏会の多様な在り方を示す公演となった ©大窪道治


(山田治生)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 第655回定期演奏会
サントリーホール・シリーズ

2024年4月19日(金)19:00 サントリーホール

指揮:佐渡裕
ソプラノ:小林沙羅
メゾ・ソプラノ:林美智子 
妖精パック:ウエンツ瑛士
合唱:One Voiceちば
合唱指揮:加藤洋朗

プログラム
ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調Op. 36
メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」Op. 61より抜粋

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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