サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン エベーヌ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル Ⅲ

ベートーヴェンのおもしろさ全開!エベーヌ弦楽四重奏団の飛躍を確信した演奏会

エベーヌ弦楽四重奏団は、たび重なる来日公演で日本でもすっかりお馴染みのクヮルテット。評者も常に注目してきたが、今回のベートーヴェン・サイクルで、彼らはまた新しい、より高いステージに達したと確信した。

エベーヌ弦楽四重奏団 ※写真は6月9日に同ホールで開催されたベートーヴェン・サイクルⅠより
エベーヌ弦楽四重奏団 ※写真は6月9日に同ホールで開催されたベートーヴェン・サイクルⅠより

もっとも、最初の作品18-3では、「なんだか大家風になってきたな」という印象。創設メンバーの頃の、あの「やんちゃ」な感じが薄れたといおうか。ピエール・コロンベが弾く第1ヴァイオリンが、以前に比べヴィブラートの振幅も、挙動も大きく、音色はどことなくハスキーで、彼の熱っぽさがもっぱら前面に立ち、あとの3人を従えているように見えたのだ。ああ、でもやはり彼らは1+3ではないな、と実感できたのは、ようやく終楽章の展開部に至ってから。ここでは5人にも6人にも聞こえる。これでこそ弦楽四重奏である。

次の作品95「セリオーソ」では、最初から、なんと違っていたことだろう。4人の発するエネルギーと自発性に差はないのだ。それでもここでの発見をいえば、ヴィオラのマリー・シレム。第1楽章冒頭の旋回音形は、楽章中、誰もが随所で弾くことになるわけだが、音といい間合いといい、彼女のそれは表出力がじつに豊かで、それが皆にサッと「感染」する。こんな人だったろうか?コロンベに並ぶ、同団もう一本の中心柱とみた。

だが、あくまでもクリティカルにみれば、第2楽章では各人のフレーズ感覚に、わずかながらズレがあっただろう。エネルギッシュな場面でのすごさは分かった。あとは緩徐な音楽で聴かせてくれ。そう思っていたら……。

作品59-2「ラズモフスキー第2番」のそれ、第2楽章「モルト・アダージョ」は圧巻であった。それは4人でもない、5人や6人でもない。1つの楽器が奏でる歌とも瞑想(めいそう)とも祈りともいえる音楽だった。ここでは2024年から同団に加わったチェロ、岡本侑也の成長ぶりを特筆したい。後半部では、付点リズムや3連符の単純な連続が顕著になるが、そんな場面での思慮と音楽性の深さが、どれだけ全体を豊かにしていたことか。昨年に比べても、彼の存在感は格段に大きくなったと思う。

同曲のフィナーレは、そのまま当夜のグランド・フィナーレ。反復される乗馬リズムの弾むこと弾むこと。それも刻々と伸縮する。アイコンタクトを密にしながら、各々が「これでどうだ!」と律動の断片を投げかける。そんな即興的なスリルも満点。前衛性とエンターテインメントの並存という、ベートーヴェンの一番おもしろい面が全開となった。残りあと3公演。まだ行っていない人は、ぜひ。
(舩木篤也)

公演データ

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
エベーヌ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル Ⅲ

6月12日(金) 19:00サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

弦楽四重奏:エベーヌ弦楽四重奏団
ヴァイオリン:ピエール・コロンベ/ガブリエル・ル・マガデュール
ヴィオラ:マリー・シレム
チェロ:岡本侑也

プログラム
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲第3番 ニ長調Op.18-3 
弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調Op.95「セリオーソ」
弦楽四重奏曲第8番 ホ短調Op.59-2「ラズモフスキー第2番」

他日公演
ベートーヴェン・サイクル Ⅳ:6月13日(土) 18:00
ベートーヴェン・サイクル Ⅴ:6月15日(月) 19:00
ベートーヴェン・サイクル Ⅵ:6月16日(火) 19:00
会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

Picture of 舩木 篤也
舩木 篤也

ふなき・あつや

1967年生まれ。広島大学、東京大学大学院、ブレーメン大学に学ぶ。19世紀ドイツを中心テーマに、「読売新聞」で演奏評、NHK-FMで音楽番組の解説を担当するほか、雑誌等でも執筆。東京藝術大学ほかではドイツ語講師を務める。著書に『三月一一日のシューベルト 音楽批評の試み』(音楽之友社)、共訳書に『アドルノ 音楽・メディア論』(平凡社)など。

連載記事 

新着記事