サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 小菅 優プロデュース 音楽朗読劇「借りた風景」

戦渦をくぐり抜けた楽器の記憶と、3人の音楽家にまつわる物語

梅雨の季節のサントリーホール風物詩チェンバーミュージック・ガーデン、16年目となる今年、ひとつの新しい企画が登場した。連日室内楽の力演が繰り広げられるブルーローズを会場に、ピアニスト小菅優がプロデュース、ピアノ、ヴァイオリン、コントラバスの三重奏に4名の朗読が加わる音楽朗読劇「借りた風景」舞台上演である。

小菅優プロデュース 音楽朗読劇「借りた風景
小菅優プロデュース 音楽朗読劇「借りた風景」

2025年2月16日に広島女学院中学高等学校ゲーンスホールで行われた当作品の誕生の来歴及び日本初演に関しては、池田卓夫氏の速リポを参照頂きたい(https://classicnavi.jp/newsflash/post-27957/)。今回の日本再演では、初演時から関わる小菅優と、広島市平和記念公園レストハウスに展示される被爆したボールドウィンのアップライト「明子さんのピアノ」を除き、演出及びキャストは一新。グランドピアノが中央奥に配され、上手にコントラバス、下手にヴァイオリン。更に下手奥には「明子さんのピアノ」が。各楽器の横にそれぞれの楽器の記憶を巡るナレーションと演技を行う役者が座り、狂言回しのバリトン駒田敏章は演出も担当する。控えめながら、演奏家も役者としての役割を果たす。

「明子さんのピアノ」を演奏する小菅
「明子さんのピアノ」を演奏する小菅

場面の性格を彩る総計8曲が提供された藤倉の音楽を挟みつつ、ハンガリー、ポーランドからイスラエル、広島と異なる場所と時間で戦争という歴史をくぐり抜けた楽器と、それらにまつわる音楽家の3つの物語が、演技を伴い語られる。異なった物語は何度か同じ台詞で交錯し、役者らの発する言葉はポリフォニックに重ね合わされ聴取不可能となり、ミュージック・コンクレートのライヴ上演のような印象的瞬間も。

室内楽音楽祭故、メッセージ性より作曲家藤倉大の室内楽作品としての性格を強調した再演になるかとも思われたステージだが、コントラバスを演じた酒向芳の圧倒的存在感もあり、演出及びナレーターが前面に出た「楽器というモノに拠って伝わる記憶を巡る90分の普遍的な舞台劇」として展開されたのは、些(いささ)か意外ではあった。

舞台は「一体、記憶とは何だろう?」という狂言回しの問いかけで暗転する。日本初演からわずか1年と数か月、この国や世界の風景は、驚く程変わってしまった。4度目の上京になるという「明子さんのピアノ」とすれば、サントリーホールは初めて。総理官邸やアメリカ大使館にほど近いニッポンの中枢でクライマックスに藤倉「Akiko’s Diary」を響かせた被爆ピアノ、そしてイスラエルの地にあるコントラバスは、今の風景をどう眺めているのだろうか。

(渡辺和)

公演データ

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
小菅 優プロデュース 音楽朗読劇「借りた風景」

6月14日(日) 19:00サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

ヴァイオリン:金川真弓
コントラバス:幣隆太朗
ピアノ:小菅優
朗読:横山友香/酒向芳/くまさかりえ/駒田敏章(演出)

プログラム
藤倉大:音楽朗読劇「借りた風景」~明子さんの被爆ピアノ、その記憶とともに~(日本語上演)
脚本:タウフゴルト 翻訳:中村真人

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渡辺 和

わたなべ・やわら

1957年千葉県生。アマデウスQ解散後のマスタークラス通訳で真の天才を目の前にし衝撃を受け、以降、室内楽を中心にフリー音楽ジャーナリストとして活動。コロナ禍に引退宣言、大分県由布院町に庵を結ぶも隠居の夢はあえなく挫折、九州北部を拠点に日本フィル九州ツアーや九州交響楽団らも眺める日々。著著に『クァルテットの名曲名演』(音楽之友社)、『ゆふいん音楽祭35年の夏』(木星舎)、『クラシックコンサートをつくる。続ける。』(平井滿との共著、水曜社)、等。

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