ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮 NHK交響楽団 第2067回 定期公演 Aプログラム

初顔合わせのN響を細密に統御して自らのサウンドを紡ぎ出したズヴェーデン

先ごろフランス放送フィルを率いて日本公演を行い注目を集めたオランダ出身の指揮者ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンが今度はNHK交響楽団の定期公演に初登場し、オケを細部までコントロールし、自らの目指す音楽を見事に紡ぎ出してみせた。

オランダ出身の指揮者ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンがN響に初登場 写真提供:NHK交響楽団
オランダ出身の指揮者ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンがN響に初登場 写真提供:NHK交響楽団

1曲目はワーグナーの「マイスタージンガー」第1幕への前奏曲。冒頭、ハ長調の和音からオケ全体が伸びやかによく鳴っていることが分かる。転調の際、楽器間の和声の受け渡しによって音色が変化していくのが鮮やかに伝わってくる。パートごとの音量バランスが細部にわたってコントロールされ、オケ全体が調和して鳴っていることで豊かな響きが生み出されているように感じた。特に終盤の158小節目から、楽劇の場面では第3幕の幕切れ前、ハンス・ザックスが演説を行う際にオケが奏でる音楽の箇所における絶妙なハーモニーは特筆すべきものであった。最後の和音が広いNHKホールにもかかわらず、残響の豊かな会場(例えばサントリーホール)と同じようにこだましたのには驚かされた。

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲 写真提供:NHK交響楽団
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲 写真提供:NHK交響楽団

2曲目は米国生まれのコンポーザー・ピアニスト、コンラッド・タオをソリストにモーツァルトのピアノ協奏曲第17番ト長調。タオは最近流行(はや)りのクリスタルのような硬質な音質ではなく、透明感はあるものの柔らかく滑らかなタッチで弾き進める。右のペダルを頻繁に使用しながら明るく穏やかな音色でオケと積極的に対話しようとの意思が感じられるソロ。ズヴェーデンとN響はそうしたタオのピアノに柔軟に対応し、生き生きとしたアンサンブルを繰り広げた。盛大な喝采にタオは聴衆に「こんばんは!本当に本当にありがとう!」と日本語で語りかけ、自らが編曲したラヴェルの「マ・メール・ロア」から〝妖精の園〟をアンコールし、ピアノの高い技術とともに作曲家としての実力も披露した。

ソリストにコンラッド・タオを迎えたモーツァルトのピアノ協奏曲第17番ト長調 写真提供:NHK交響楽団
ソリストにコンラッド・タオを迎えたモーツァルトのピアノ協奏曲第17番ト長調 写真提供:NHK交響楽団

後半はズヴェーデンが得意とするバルトークのオーケストラのための協奏曲。ロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートマスター経験者だけに指揮者としてのみならず、オケマンの視点からもオーケストラの機能を熟知しているだけに、この作品でも確信に満ちたコントロールが目立った。機能的に作られている〝オケコン〟においても響きの作り方が独特で、特に弱音部でのメロディー以外のパートの音量バランスに細心の注意を払っていることがその指揮ぶりからも窺(うかが)えた。さらに主旋律のパートに対してはアゴーギクの付け方にこだわりをもって細かく指示を出しており、特に第3、4楽章の叙情的な旋律は一分の隙もないほどに自らの意思を徹底させていたように映った。最終楽章はシャープなタクトによる機敏な捌(さば)きで力強いフィナーレを構築して締めくくった。
(宮嶋 極)

ロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートマスター経験者でもあるズヴェーデンは、細部までこだわりをもって細かく指示を出した 写真提供:NHK交響楽団
ロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートマスター経験者でもあるズヴェーデンは、細部までこだわりをもって細かく指示を出した 写真提供:NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団 第2067回定期公演 Aプログラム

6月13日(土)18:00 NHKホール

指揮:ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ピアノ:コンラッド・タオ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太

プログラム
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番ト長調K.453
バルトーク:管弦楽のための協奏曲

アンコール
ラヴェル(コンラッド・タオ編):組曲「マ・メール・ロア」から〝妖精の園〟

他日公演
6月14日(日)14:00 NHKホール

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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