昨年の第19回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に輝いたリュー・テンヤオが来月、サントリーホールで2晩にわたってコンサートなど、初の日本公演を行う。世界が注目する新星の魅力とサントリーホールでの公演の聴きどころについて、同コンクールをフルに取材した道下京子さんに紹介していただく。
2025年にワルシャワで行われた第19回ショパン国際ピアノコンクールで、リウ・テンヤオが当時16歳で第4位を受賞し、一躍脚光を浴びた。
私がリウの演奏を最初に聴いたのは、2025年1月であった。彼女は、ショパン国際ピアノコンクールin Asiaの「派遣コンクール」に参加するため、日本を訪れた。その最終審査で、リウは、ショパンの幻想ポロネーズと弦楽四重奏との共演でピアノ協奏曲第1番を弾いた。音楽における呼吸の硬さがなく、滑らかな音を生み出しており、16歳という年齢を感じさせない素晴らしい演奏であった。一方で、気持ちが高揚する場面では、音楽の流れがやや走り気味になるなど、課題も感じられた。
10月3日、ワルシャワのフィルハーモニーホールで第19回ショパン国際ピアノコンクールの本大会が始まった。
第1ステージ出場者は85人。そのうち、中国からの出場者は28名と圧倒的に多い。私がワルシャワで取材した中国のコンテスタントやピアノ関係者によると、数ある国際コンクールの中でも、中国ではワルシャワのショパン・コンクールは圧倒的に人気が高いという。中国国内では、海外の著名なピアニストによるマスタークラスがさまざまに行われており、リウもカタジーナ・ポポヴァ=ズィドロンのマスタークラスを受講。かつてのショパン・コンクール優勝者ラファウ・ブレハッチをはじめ、すぐれたピアニストを多く輩出する彼女のもとで学ぶため、リウは2024年の秋から生活の拠点をポーランドへ移した。
9カ月を経たリウの演奏を聴き、最も成長を感じたのは、客観性である。良い意味で感情がコントロールされ、作品を深く読み込んでいたと思う。
リウは1次予選から安定した演奏を示していた。彼女の音楽性とマッチした選曲も、好演に寄与していた。集中力の高さと卓越した演奏技巧から生み出される透明感に満ちた清澄なサウンドは、彼女の演奏における大きな魅力だ。また、なめらかなメロディの創出や自然なリズム感、そして気品あふれるピアニズムは、リウのすぐれたショパン演奏に貢献した。
リウの人気は、その愛らしい表情も相まって、ラウンドが進むにつれて高まっていった。10代のコンテスタントも、気がつけば、ファイナルでは彼女ひとりになっていた。11名のファイナリストの中で、彼女は3番目に登場。「幻想ポロネーズ」では過去に思いを寄せるような表現、そしてピアノ協奏曲 第1番における伸び伸びとした、スケールの大きな演奏が心に残っている。2008年10月21日生まれのリウは、コンクールが終了した翌日、17歳を迎えた。
2026年8月、ワルシャワで大人気だったリウが来日し、オール・ショパンのプログラムを披露する。
東京では、2夜連続公演が行われる。第1夜はショパンの2曲のピアノ協奏曲を、ポーランド出身の指揮者ウカシュ・ボロヴィチとNHK交響楽団のメンバーによるオーケストラと共演する。リウは、ショパン・コンクールでは「コンチェルト賞」を受賞。そのファイナルで取り上げた第1番と、まだ日本では披露していない第2番も一夜にして聴くことができる。
そして、第2夜はリサイタル。演奏されるのは、ワルシャワのコンクールで第1ステージからセミファイナルで取り上げたピアノ・ソロの曲だ。「舟」は、リウが第1ラウンドで演奏したショパン晩年の傑作、第2ラウンドで取り上げられたアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズとモーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〝お手をどうぞ〟による変奏曲は、彼が若い頃の意欲みなぎる創作。そして、《前奏曲第15番「雨だれ」》、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」、子守歌、マズルカOp.59はセミファイナルで披露した作品。伸びやかな情感とともに輝きに満ちた美しい音によって、淡い詩情に満ち溢れるショパンを聴かせてくれるに違いない。
伸び盛りの17歳のリウは、どんなショパン像を私たちの前に示してくれるのか、大きな期待を込めて見守りたい。
(道下 京子)
公演データ
リュー・テンヤオ オール・ショパン協奏曲&リサイタル
〇8月12日(水)19:00 サントリーホール
ピアノ:リュー・テンヤオ
指揮:ウカシュ・ボロヴィチ
管弦楽:N響メンバーを中心とした特別オーケストラ
プログラム
ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21
ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
〇第2夜(リサイタル)
8月13日(木)19:00 サントリーホール
プログラム
オール・ショパン
前奏曲第15番「雨だれ」Op.28-15
ピアノ・ソナタ第2番「葬送」Op.35
子守歌 Op.57
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
3つのマズルカOp.59
舟歌Op.60
モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の〝お手をどうぞ〟による変奏曲Op.2
他都市での公演
8月20日(木)19:00 いずみホール(大阪) オール・ショパンリサイタル
8月23日(日)15:00~ 山形テルサ オール・ショパンリサイタル
※詳細は主催者ホームページをご覧ください
リュー・テンヤオ オール・ショパン協奏曲&リサイタル | アーティスト&コンサートマネージメント 株式会社テンポプリモ
※英国の名門レーベル「デッカ」と契約を機に公開された動画
https://youtu.be/ONxG3-wJzLs?si=Y1eK6ZFS7uWQ3QE2
みちした・きょうこ
桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。共著「ドイツ音楽の一断面――プフィッツナーとジャズの時代」など。「音楽の友」「ショパン」などの 音楽月刊誌や書籍、新聞、Web媒体、演奏会プログラムやCDの曲目解説など、ピアノのジャンルを中心に音楽経験を活かした執筆を行なっている。










