三浦文彰&ARKフィルハーモニック 真夏のオール・ベートーヴェン・プログラム
三浦文彰&ARKフィルハーモニックの8月の国内ツアー(全7公演)の初日は、横浜みなとみらいホールで、オール・ベートーヴェン・プログラム。三浦がアーティスティック・リーダーを務めるARKフィルには、ソリストや国内オーケストラの主力メンバーとして活躍するプレイヤーたちが参加している。この日は、三浦章宏、松浦奈々、髙橋和貴が順にコンサートマスターを担った。
まずは、「エグモント」序曲。冒頭のトゥッティの非常に長いフェルマータが、大きな悲劇の始まりを告げるかのよう。オーケストラが厳しくソリッドな響きを奏でる。ヴァイオリンのひそやかな調べに苦悩が感じられる。アレグロの主部でも、ときにハッとするような弱音表現を交え、じっくりと悲劇が描かれた。そして、コーダは爆発的な歓喜と勝利。
続くピアノ協奏曲第4番の独奏者は清水和音。清水と三浦は、ピアニストとヴァイオリニストとしても共演を重ねている。第1楽章冒頭、清水は、さり気なく、美しく始める。ヴァイオリンの名手である三浦の指揮に導かれて、ヴァイオリン・パートが洗練されたレガートな音色を奏でる。清水は、ゆったりと音楽を奏でる。カデンツァもチャーミング。第2楽章では、穏やかで味わい深い独奏ピアノと厚みのある弦楽器が対話を深めていく。第3楽章では、清水が自然な流れとともに軽快さから重厚さまでベテランらしい幅広い表現。オーケストラもメリハリのきいた演奏を繰り広げる。
清水は、アンコールのブラームスの間奏曲Op.116-4で、ほっとするような味わい深い演奏を披露。
演奏会後半は、辻󠄀井伸行の独奏でピアノ協奏曲第5番「皇帝」。辻󠄀井はARKフィルのレジデント・ピアニストである。第1楽章は華麗に始まる。辻󠄀井は透明感のある音が美しく、快調なテンポで、攻めの演奏を展開。三浦が金管楽器を開放的に鳴らし、オーケストラも積極的に音を出す。とりわけ再現部冒頭は壮麗であった。第2楽章もさらりと流れの良いテンポ。辻󠄀井も停滞することなく明確に弾く。木管楽器がもう少し前に出てほしいところもあったが。第3楽章もスピード感があった。独奏ピアノのクリアな音の躍動。辻󠄀井が華麗でエネルギッシュな演奏を繰り広げる。
ベートーヴェンが「皇帝」を書いた年齢に近づいた辻󠄀井は、ベートーヴェンの音楽をより痛切に自分の音楽として感じているように思われた。
そしてソロ・アンコールの「月光ソナタ」第3楽章も速く烈しく駆け抜けた。
(山田治生)
公演データ
辻󠄀井伸行×清水和音 三浦文彰&ARKフィルハーモニック
「究極のベートーヴェン」
8月4日(火)14:00横浜みなとみらいホール 大ホール
指揮:三浦文彰
ピアノ:清水和音、辻󠄀井伸行
管弦楽:ARKフィルハーモニック
コンサートマスター:三浦章宏、松浦奈々、髙橋和貴
プログラム
ベートーヴェン
:「エグモント」序曲
:ピアノ協奏曲 第4番[ピアノ:清水和音]
:ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」[ピアノ:辻󠄀井伸行]
ソリスト・アンコール
ブラームス:間奏曲Op.116-4 (清水和音)
ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」より第3楽章 (辻󠄀井伸行)
他日公演
8月5日(水)19:00東京オペラシティ コンサートホール(東京)
8月6日(木)15:00栃木県総合文化センター メインホール(栃木)
8月8日(土)14:00柏崎市文化会館アルフォーレ 大ホール(新潟)
8月9日(日)14:00石川県立音楽堂コンサートホール(石川)
8月10日(月)19:00高崎芸術劇場 大劇場(群馬)
8月11日(火・祝)14:00所沢市民文化センター ミューズ アークホール(埼玉)
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。










